■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回はドコモのahamoの手続き問題、スマホの販売戦略について議論します。
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キャリアのサポートが有償化の流れ
房野氏:ドコモのahamoはサービス開始時にサーバが混雑するなどのトラブルがありました。その後、ahamoの申込などをドコモショップのスタッフにサポートしてもらえる有償サービス「ahamo WEBお申込みサポート」「ahamo WEBお手続きサポート」の提供も始まりました。利用料金は各3300円で、このサービスは以前の総務省の会合で予告されていたものだそうですね。
房野氏
石川氏:ahamoのオンライン契約が大変、設定できないというのでドコモショップに駆け込んだのに、ちゃんと対応してくれないからブログに書くという、世間が予想した通りの展開になった。例えるなら航空会社のピーチのサービスが悪かったからANAに駆け込むようなものなので、それはちょっと違うんじゃないかと思うところがある中で、ドコモとしては落とし所として有償サポートをやると発表した。こういったことは当然、予想されたことなので用意していて、始めた。ドコモショップでahamoの契約を受け付けるということではないようです。有償サポートで、自分で契約するのを、店員さんがそっと横で見てくれる、といった感じ。
石川氏
房野氏:あら、そうなんですか。
石川氏:あくまでサポートという位置付けになっているようです。
石野氏:面白いのが、ahamoの月額料金(2970円)よりもサポート料金(3300円)の方が高いこと。キャリアの経営において人件費が高いことが改めてわかった。
石野氏
房野氏:1回あたり3300円ということですよね?
石野氏:さすがにサブスクリプションにするとは思えないので、1回あたりの料金です。
法林氏:サポートの有償化は他社が先にやっている。KDDIは「auスマートサポート」、ソフトバンクは「ショップのサポート内容の明確化とメニュー化」をしている。KDDIは「auスマートサポート」の充実ぶりをアピールするため、体験会などのサポートイベントを取材する機会を設けていた。ドコモは「ネットトータルサポート」(月額550円)とか、色々広げたのはいいけれど、基本的に丸投げで、自分たちで体制を作ろうとしていない。
「auスマートサポート」
法林氏
石野氏:ドコモをフォローしておくと、2019年12月から、オンラインショップや量販店で端末を買った人に対するサポートの有料化をやっていた。2020年12月からは「アプリ設定サポート」として、LINEやメルカリ、モバイルSuicaなどの設定を1650円でサポートしています。料金的な落とし所としては悪くないという気がしています。つい最近聞いた話なんですが、イオンモバイルでは6000円くらいでLINEやGoogleアカウントの設定をサポートしていて、このサービスが非常に好評だそうです。やっぱり店頭でお金を払う人もいるので、必要な人にお金を払ってもらうのは別に悪くないと思います。みんながahamoにしちゃうとドコモショップの稼ぐ方法がなくなってしまうので、サポートで収益をあげるという考え方は間違っていないと思います。
石川氏:業界が健全化する。サポートを必要とする人は、そのサポートに対してちゃんとお金を払うべきだし、サポートがいらない人にとっては安くできる道ができたので喜ばしいことだと思います。個人的には、5Gギガホ プレミアを契約しているけど、サポートは一切いらないので基本料からその分、引いて安くしてくれって思う。
石野氏:“オンライン専用ギガホ”がほしいですね。
法林氏:もしくはサポートを受けなかったらdポイントで還元するとか。そこには公平さが必要な気がする。
石川氏:サポート料金をdポイントで払えてもいい。
房野氏:サポートでdポイントは使えないんですか?
法林氏:dポイントを携帯電話料金の支払いに充当できるので、巡り巡れば、払えるとも言える。
石野氏:有償サポートをやるんだったら、サポート能力のすごさを見せてほしい。新機種を買ったら1時間くらいで旧機種と全部同じ設定にしてくれるとか。アプリのアカウント登録は個人情報だから難しいけど、アプリの並びを旧機種と同じにしておいてくれるとか、それくらいフルサポートしてくれるなら、むしろお金を出す。ショップや販売代理店にはサポートの内容をもっと磨きあげてほしいなと思います。
すべてのことにはコストがかかっている
石川氏:お金をとるんだったら、ちゃんとしたサポートをしなくてはいけないというプレッシャーがショップスタッフや販売代理店にかかるので、これはこれでいいんじゃないかな。サポートに対してお金を払ってもらうことは、ずっと前から代理店がやりたかったことなんだけど、ほかのお店もそうしないと、お客さんが別のショップに行ってしまう危険性があって、なかなか導入できなかった。それをキャリアが音頭を取って、みんな一斉に有償サポートにしましょうということになった。サポートにはお金がかかると認知されるようになると、業界もなんとか生き延びていけるようになると思うので、いい流れになるんじゃないかと思う。あとはユーザーの理解が進み、「通信料金を払っているのに、なぜサポートしてくれないんだ」というユーザーの不満が減ることを望みます。
法林氏:クルマに例えれば、各メーカーのディーラーで車検を受けるのか、ガソリンスタンドなのか、自分で持っていってユーザー車検をするのかといった選択ができる。当然、何かを依頼するにはコストがかかるわけだけど、日本はサービスという得体の知れない文言によってごまかされてきている。すべてにコストがかかることを理解する意味でも良いことだと思うけど、ただ手順が悪い。ahamo発表から4か月後にこんなことをしているのは、最初の設定が甘かったから。最初から考えておくべきだった。
石野氏:ahamoもそうだけど、オンライン専用プランは全部、いろんなことを小出しにしているんですよね。
石川氏:当初の思惑とはだいぶ違う方向に行っているんだろうなと思います。当然、競合他社がいるので、それらの動きにも影響されるけど、今回に関しては武田良太総務大臣などの影響で、ahamoが本当に狙っていたことが、実現できなかったんだろうなという気がします。
キャリアの端末販売も変化してきた
房野氏:端末の販売方法も変わってきていますね。すでにキャリアは一応、端末だけの販売をしています。ドコモの場合、「スマホおかえしプログラム」はドコモユーザー以外でも使えるようにしていますが、今後は店頭・オンラインでの一括払いや分割払いまで対応しようとしていますね。
石川氏:総務省の資料では、ドコモは、ドコモ回線を持っていない非契約者がオンラインでも端末を買えるようにする。ケータイ補償も今夏を目処に付けられるようになる、という話になっています。だから買いやすくなるけど、キャリアがどこまで自分たちでやるんだろうと。こうなると、キャリアモデルとしては売らなくなって、「端末はどこか適当なところで買ってきてください」ということにもなってくるし、キャリアとメーカーも分離していくことになっていくのかなと。今回はGalaxyがキャリアの発表会より先に独自に発表会を開催しているし、ソニーもそれに近い形で発表している。そういうタイミングなのかもしれない。
石野氏:新しいXperiaの発表では、ドコモは他の2キャリアに出し抜かれたところがありましたね。
石川氏:ドコモは発表会をやる気でいるんでしょう。KDDIとソフトバンクは発表会をやる気がなさそうだから、メーカーと一緒に発表したらいいということだったんだと思う。
法林氏:従来と同じような形式で発表会をやろうというモチベーションみたいなものが、キャリアに薄れてきている。むしろタイムリーに製品が出てくる方が大事だと思うし。
石川氏:我々記者としては取材する機会ができるので発表会をやってくれるが方いいですけど、ユーザーやメーカーにとっては製品が早く出る方がいい。Galaxyにしてもこれまでは、例年2月にグローバル発表されたものが、日本での発売は6月くらいまで引っ張られていた。あれってドコモの都合でしかなかったわけで。もうそうじゃなくて、日本モデルでも時間をかけずに販売できるんだから、「すぐ売ればいいじゃん」ってことになってきてほしい。今回の流れは非常にいいと思います。
石野氏:ソフトバンクもメーカーの発表会に顔を出すようになっていますね。キャリア関係者がメーカーの発表会に登壇するのは、グローバルの発表会では普通のことです。
法林氏:良いことですよ。ソフトバンクは、今、世間の温度感が一番わかっている気がする。Xiaomiの「Redmi Note 9T」の発表会の時もそうだったけど、ちょいちょい顔を出している。ちょっと雰囲気が変わったなって思うようになった。
Redmi Note 9T
石川氏:ソフトバンクは昔から、端末に自分たちのロゴを入れずにやってきています。自分たちの立場をわきまえている感じがする。
法林氏:いや、単にコストがかかるからだよ(笑)
石川氏:その点、ドコモはバリバリ自社のロゴを付けている。
石野氏:ドコモは端末を「開発した」って言いますからね。
石川氏:そう。独自のアプリケーションもいっぱい入れている。非回線契約者が買えるようになるのなら、ああいったキャリアのアプリも入れない方向にしなきゃいけないんじゃないかなって気がしている。
石野氏:ahamo版のXperiaはキャリアのアプリが何も入っていない。それでいいんじゃないですか。
法林氏:キャリアとしては、いろいろ試したいんだと思う。キャリア製アプリの扱い方がこの1年くらいで劇的に変わっている。auは自社サービスのアプリを「au Market」という独自マーケットで配布していたけれど、続々とGoogle Playに移行している。髙橋社長の考え方なんだろうけど、明らかに方向性が変わってきた。Google Play以外のマーケートを持つことの善し悪し、リスクもある。今や「au Market」で扱っているのはごく一部のみ。ドコモもauも、端末のセットアップ時に、Androidの設定が終わった後、キャリアのセットアップウィザードが走る。
石野氏:そして、契約しているアプリがスマートフォンにダウンロードされる。
法林氏:本来、契約しているものだけ使えればいい。例えば、ドコモが提供しているアプリ一覧ページみたいなものから、必要なものだけ選べるようになっていれば、その方が楽。位置付けが変わってきた感じがする。
キャリアの共通UIはもう不要?
石野氏:ただし、ドコモはまだホームアプリがあるんですよ。
法林氏:「docomo LIVE UX」ね。あそこにお金をかける理由がわからない。
石野氏:端末の個性が消えてしまうし、LIVE UXはもうやめないかな。電話帳を作るのも、もういいんじゃないかなって気がする。Android標準のホームアプリが使いやすいというわけではないですけど、メーカーもその辺はがんばっている。キャリアがホームアプリを用意して、メーカーの個性をつぶす形で統一する必要があるのかなって。
石川氏:LIVE UXは機種変更する時に、キャリアの共通UIだったらユーザーが新しい端末でも使い方に迷わないからってことでしょ。
石野氏:そういうメリットはあるんですけど……とはいえ、それがLIVE UXなのかと。何かちょっと違う気がする。
法林氏:何度も問いただしたんだけど、全然直す気はないらしい。
石野氏:ただ、僕らは使わないけど、XperiaやGalaxyでLIVE UXを使っている人も結構いますよね。
法林氏:「これってどうしたらいいんですか?」って聞かれて、LIVE UXだと教えるのに時間がかかる(笑)
石野氏:Galaxy NoteでもLIVE UXが使われているけど、絶対使いにくい。
石川氏:共通UIはキャリアショップの人が説明しやすいから。メーカーごとに差があると教えにくいし、設定も大変だから共通UIにしている。
法林氏:でも、メーカーの選択肢は減ってきているから。
石川氏:という意味でも、そろそろ見直してもいいんじゃないかな。
石野氏:サポートが有料になるんだったら、LIVE UX統一じゃなくていいという気がします。
房野氏:ショップの人は各社のUIを覚えるのが大変そうですが。
石野氏:いや、今はそんなに違いはないですよ。XperiaとGalaxyでも、そんなに違わない。
法林氏:GoogleがAndroidの基本ルールみたいなものを作った。だから、そのUIに則っているか否かの違い。docomo LIVE UXはまったく則っていない。だからやめた方がいい。
石野氏:むしろLIVE UXが異端。でも、Xiaomiとかもだいぶカスタマイズされている。違うといえば違うんですけど。
法林氏:Xiaomiの「MIUI」は、ソフトバンク向けの端末の出荷時設定を変更している。SIMフリー版とソフトバンク向けは違っている。
石野氏:中国メーカー勢、例えばXiaomiの「MIUI」も、OPPOの「ColorOS」も、だいぶ手を入れている。違うといえば違うんですが……
法林氏:昔は手を入れるとアップデートができないと言われていたけど、今はそんなこともない。どこまでカスタマイズしていいかということがが明確なので。
石野氏:Xiaomiの端末になると、独自アップデータみたいなものが入っていて、いつのまにかOSがアップデートされていたりする。あれは本当にいいのかなとちょっと思ったりもしますが。
......続く!
次回は、2021年春発売のスマートフォン新製品について議論する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ!
石野純也(いしの・じゅんや)慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘文/佐藤文彦