バルミューダのなかで最も知られているであろうトースター製品「BALMUDA The Toaster」。デザイン性の高さに加え、焼かれたトーストの美味しさが高く評価され、国内外合計で100万台以上売り上げたという
バルミューダは家電市場で成長したベンチャー企業で、2020年末には東証マザーズ上場を果たしている。代表的な製品には、トーストの焼き加減に徹底的にこだわったトースター「BALMUDA The Toaster」や、太陽光を再現したデスクライト「BALMUDA The Light」がある。いずれも市場には数千円台の廉価製品があるなかで、バルミューダはコンセプトを絞った家電を投入し、支持を集めてきた。
家電分野で実績のあるバルミューダが作るスマホはどのようなものになるのか。そもそもなぜスマホを作るのか。決算会見(2021年12月期 第1四半期)で、バルミューダ代表取締役社長の寺尾玄氏が熱く語った。
ソフトバンクとSIMフリーで販売
バルミューダが企画・開発するスマホについて、現時点で明らかにされていることは少ない。デザインや価格、スペックから製品名までほとんどは未定だ。
現時点で公表されている点は5G対応で、11月発売であること。また、販路が大手キャリアではソフトバンク(SoftBankブランド)専売となり、SIMフリー市場向けにも販売されることだ。さらに、製品の製造を京セラが担当することが公にされている。
バルミューダは自社で工場を持たないファブレスモデルを採用している。スマホ製造でもファブレスモデルを踏襲し、企画・開発した製品を京セラが受託製造する格好だ。ちなみに京セラの受託製造拠点は国内のみに存在するため、バルミューダのスマホもおそらく日本製となるだろう。
スマホの選択肢が少なすぎる
寺尾社長は携帯電話事業への参入について、「スマホは選択肢が少なすぎる」と切り出した。
「スマホは世界で最も多くの人が使っている民生品だ。手の中に収まり、世界中とつながるこの便利なデバイスが無くなることはおそらくないだろう。
ただし、スマホはどれもこれも同じに見える。そこにビジネスチャンスを見出した。我々バルミューダがチャレンジできる中で、もっとも大きな市場だと考えている」(寺尾氏)
バルミューダの目指すスマホは「個性ナンバーワン」という。外形のデザインについてはすでに開発を進めており、モックアップも「後ろの机に置いてある」という状況だが、披露されることは無かった。
スマート家電は目指さない
寺尾氏は「『キッチン家電のバルミューダが間違ってデザインケータイ出しました』にはならない。させません」と強調。いわゆる“スマート家電”は目指さないというスタンスが、明確に表明された。その理由は、「家電がスマート化できていないから」だという。
「スマートフォンから家電を操作できるようにするだけでは意味が無い。たとえばトースターが外から操作できても、誰も喜ばないだろう。スマホ事業への参入によって、家電とスマホの双方の知見を持つことになる。それが掛け合わさり、新しい形の商品が生み出されることを期待している」(寺尾氏)
差別化の要はアプリケーション
スマホならではの体験価値として、バルミューダが差別化の力点を置くのは「アプリ」だ。バルミューダ独自のアプリを複数開発しているという。
「スマホの『良きこと』は画面の中、アプリケーションで行われる。私たちはスマホに多くの時間を使っているが、たくさんの種類のアプリを普段使いしている人は多くはない。結局、普段使いのアプリは集約されてくる。
おそらく、普段使いのアプリはiPhoneが発明されてからほとんど変わっていないのではないか。こうした普段使いのアプリに独創的なアイデアを盛り込んで、体験価値を高めることができると考えている」(寺尾氏)
レッドオーシャンを波乗りしたい
バルミューダがスマホ参入を表明したプレスリリースでは、「コモディティ化が進んでいる携帯端末市場においても、バルミューダならではの新たな体験や驚きを提案していきたい」と、ネガティブな意味で受け取られがちな“コモディティ化(参入企業が多すぎて差別化しづらくなること)”という言葉を使っている。
バルミューダの参入表明からは、そんなコモディティ化する市場の中で、独自性を打ち出していく決意が見て取れる。寺尾氏は「スマホ市場はレッドオーシャンになっているが、その波に飛び込こんで、非常に良い波乗りを見せていきたい。そんな目論見が今の私にはある」と決意を示した。
製造委託でスマートフォンを設計する場合、設計にどこまで関与するかが差別化の鍵となってくる。製造元メーカーの標準デザインをほぼそのまま採用する場合、設計にかかる予算は多くないが、独自色を出すことは難しくなる。
これに関連する資料が、スマホ参入と同時に示された業績予想だ。2021年12月期でスマホ事業の売上げが27億円と見込まれている。これは、バルミューダの年間販売額の14.9%をスマホが占めるという計算だ。多くがソフトバンク向けの出荷とみられる。バルミューダは当初から大手キャリアのソフトバンクで販売を計画しており、相応の規模の販売を見込んでいるようだ。
個性ナンバーワンを目指す
ファブレスモデルで成長してきたバルミューダの歴史を、寺尾氏は「集積度の高度化の歴史」と表現する。
寺尾社長は「バルミューダが2003年に創業したとき、最初に作ったのは『X-Base』というMacBookの冷却台だった。これは電気を一切使っていない製品だ。実はこのとき、本当は、冷却台の上に載るものを作りたかった」と振り返った。
「それから、デスクライト、扇風機、トースターと、バルミューダは駆け足で200年分のテクノロジーを体験し、習得してきた。そして今、技術力を磨き上げて、集積度が最も高い製品が手が届くようになった。シェアNo.1はどこかに任せておけばいい。バルミューダは個性ナンバーワンを目指す」(寺尾氏)
著者 : 石井徹
いしいとおるモバイルが専門のフリーライター。スマホを中心に5GやAIなど最新技術を幅広く取材する。スマホ購入履歴は100台以上。3キャリアのスマホを契約し、どこでも通信環境を確保できるよう心がけている。
この著者の記事一覧はこちら