■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は「HUAWEI nova 5T」から見えてくる、ファーウェイの今後の展開について議論します。
ちゃんとAndroidスマホだった「HUAWEI nova 5T」
房野氏:ファーウェイが新しいSIMフリースマホ「HUAWEI nova 5T」を発表、発売しました。Androidスマホで、Googleのサービスが使えますね。
HUAWEI nova 5T
房野氏
石野氏:アメリカの制裁が続くと、nova 5Tが現状で最後のAndroidスマホになる可能性が高いといわれていますね。よくここまでストックがあったなという感じです。
石野氏
石川氏:まだあるんじゃないのかな。
石川氏
法林氏:カラーバリエーションがあるし。いざとなれば、「P30 Pro」のSIMフリーもあるから(笑)
法林氏
石野氏:P30 ProのSIMフリーで、IFAで発表していたツートーンカラーのモデルだったら、まだある。でも新モデルとしては最後の1台かなと。
石川氏:販売台数の話もしていたけれど、意外と制裁の影響を受けていないんだなということは驚いた。
石野氏:中国で売れているんですよね。
石川氏:日本でもちゃんと売れている。
石野氏:「P30 lite」が数を稼いでいるような感じ。影響が出るとしたら来年ですよね。このまま制裁が長引くと、“P40 lite”がHMS(HUAWEI Mobile Service:ファーウェイ独自のアプリエコシステム)になり、それがどうなるかという感じですよね。
P30 lite
法林氏:HMSにせざるを得ない状況に追い込まれたけど、アメリカの姿勢もどうなのかなと思うところもある。みんなあまり意識していないけれど、山根さん(携帯電話研究家の山根康宏氏)がいうには、中国ではファーウェイのスマホのシェアが50%近くを占めるところまで来ている。極端な話、ファーウェイが強すぎて、iPhoneが中国で売れていないって話もある。OPPOやVIVOは、仕方がないから国外に出て行かざるを得ない。だからXiaomi(シャオミ)もいろんな問題をクリアにして、ようやく日本に参入するという話。
石川氏:今回のファーウェイの発表会は、プレゼンでAndroidスマホだといわなかったので、もしかしたらHMSなのかなと思った。
法林氏:プレゼンの時はそう思ったね。
石川氏:その後HMSの話を始めたので、どうなんだ、端末を確認しなきゃなと思ったら、ちゃんとAndroidだった。
石野氏:ちゃんと最初にAndroidスマホだと言ってよって思った。
石川氏:それが一番気になるところだったんだから。
石野氏:ただ、ファーウェイとしては、まだどっちに振るか迷っているんだろうなというのは感じる。「Mate 30 Pro」は5G版を日本で販売するといったけれど、そこでHMSかAndroidか、OSをどっちにするか迷っているんだろうなと。それまでの時間稼ぎなのかなとちょっと思いました。
Mate 30 Pro
石川氏:5Gで出すなら、やっぱりキャリアに扱ってもらわなきゃいけないわけで。キャリアが扱ってくれるのかどうかという不確定要素があるからね。
石野氏:ソフトバンクが扱いそう。
法林氏:現実的にはソフトバンクくらいしかないかもしれない。ソフトバンクはサムスンの端末を扱えないから、持ちネタが1つ少ないせい。
石野氏:今冬も「Galaxy Fold」の代わりに「LG G8X ThinQ」を入れたり、ZTEの端末を入れたりしている。サムスン端末を入れられない影響は大きい。
Galaxy Fold
LG G8X ThinQ
房野氏:nova 5T自体についてはどうですか?
HUAWEI nova 5T
石野氏:nova 5Tは、ハイエンドだけど安いという“ジェネリックハイエンド”みたいなAndroidスマホです。CPUはP30 Proとかと同じもので、1年前のCPUをそのまま継続して使ってコストを下げ、カメラも4眼といいつつ、30倍ズームではなくてマクロレンズにしたり、画面内指紋センサーを入れずにサイドに配置したりして、お金がかかりそうなところをどんどん切りつつハイエンドを維持して5万円台を実現したモデルです。
法林氏:ミッドハイみたいな感じだね。
石野氏:処理能力はハイ。P30 Proと同じだからハイで、微妙なところなんですよね。ハイの下みたいな感じ。細かく区切ってあの値段にした。性能が譲れない人が安く買いたいならいいモデルだなという感じです。novaシリーズは元々若者向けライン。5万円台なので、MVNO向けSIMフリー端末としては少し高いけれど、「OPPO Reno A」くらいではまだ満足できなかった人に、もう1万円出せばこれが買えますといって売るモデルですね。
OPPO Reno A
石川氏:微妙なラインだよね。
石野氏:ちょっと微妙ですね。
石川氏:ハイかローかでいうと、真ん中なので選びづらいなぁって気もする。
法林氏:P30 Proはキャリア向けなのでいいとして、SIMフリーの「P30」とどう分けていくのかってところがあるし、値段的に見ても微妙な位置にいるのは確か。
周辺機器も投入
法林氏:意外に発表会で評価が高かったのは、ワイヤレスイヤホンの「HUAWEI FreeBuds 3」とスマートウォッチの「HUAWEI Watch GT 2」。
HUAWEI FreeBuds 3
HUAWEI Watch GT 2
石野氏:電話機が出せない分、周辺機器で稼ぎますよって感じできている。
房野氏:あのイヤホンはいいですよね。Appleの「AirPods」と同じようなオープンイヤー型なのにノイズキャンセリングが不思議に効いている。
石野氏:いいですよね。ノイズキャンセリング機能を搭載したAppleの「AirPods Pro」で盛り上がっている中、Androidユーザーは悔しい思いをしていると思うんですよ。だからFreeBuds 3は買うべきだと思いますね。
AirPods Pro
房野氏:価格も安めですしね。ただ、私はインナーイヤー型だとどうしても耳から外れちゃうんです。シリコンチップを付けてほしいです。
石野氏:ノイズキャンセリング機能があって完全ワイヤレスで2万円を切っている。AirPodsのことを着けられなかったスマホユーザーのもう半分もうどん化する、ファーウェイの人類総うどん化計画(笑)
房野氏:Watch GT 2はどんなOSを使っているんですか?
法林氏:時計は独自OSで、たぶんベースはLinux。あれもいいよね、電池が減らない。
房野氏:2週間くらい大丈夫です。
法林氏:全然減らない。
石野氏:意外とファーウェイは周辺機器メーカーとしてやっていけるなと思った。
石川氏:「1+8+N」(スマホを中心に様々な製品を連携させていく戦略)だっけ。モニターも出していたけれど、スマホが売れないなら周辺機器を売っていくという姿勢だと思うし。
房野氏:ファーウェイにはPCもありますね。
石野氏:PCもMicrosoftが絡むので、若干難しいですよね。
法林氏:でも、Microsoftは今のところ何もしないっていっているでしょ。
石野氏:そうなんですか。
法林氏:Googleのような扱いにはなっていない。ファーウェイのPCはインテルのチップを使っているし。
石川氏:「Windows on ARM」(ARMベースのプロセッサを使ったPC向けのWindows)でもやれないことはないけれど、今のところはないですね。
法林氏:Windows on ARMはほぼSnapdragon用に作られている。
石川氏:Snapdragon 8cx用ですね。
房野氏:パソコンはお咎めなしなんですね。
法林氏:国のセキュリティ的にとか国家安全上とかだったら、よっぽどPCの方が危険だといいそうなのに。
石野氏:PCに関しては最悪、ユーザーが自らOSをインストールできますからね。
房野氏:ファーウェイ、健在ですね。
石野氏:ZTEみたいに制裁を受けてすぐに崩れるような会社ではなかったなと。
石川氏:日本が特殊。アメリカはファーウェイがなくても生きていける国じゃないですか。一方で、ヨーロッパはアメリカの言うことは聞かないし、アジアも同じだけど、日本はアメリカの言うことを聞かざるを得ない立場なので、結果としてファーウェイに対して冷たく当たらざるを得ないという状況。日本市場が一番、呉波さん(ファーウェイデバイス 日本・韓国リージョンプレジデント)にとって困った状況だと思うし、そりゃ8キロも痩せるよなと。
法林氏:3キャリア、楽天も入れたら4キャリア、3.1キャリアくらいの言い方がいいかもしれないですけど、キャリアごとにファーウェイに対するスタンスが明確に分かれた。ドコモは国の都合があるので距離を置かざるを得ないし、ソフトバンクは過去のつながりがあるので、売れるものは売りましょうという感じ。それに準じているのがKDDIで、一応、気にかけている。楽天はオーライですよね。「バンバン売りますよ!」みたいな。それでも、楽天モバイルの中で売っている台数は、たぶんまだ2番手じゃないかな。シャープが一番手だと聞いてます。
房野氏:OPPOはどうなんですか?
法林氏:OPPOは3番目。まぁまぁ売れているけれど、それでも3番手。
石野氏:指原さんのおかげですよ。
法林氏:そういう意味で、ファーウェイは苦労しているとは思うんだけど、ボロボロかといったら、そうでもない。普通に売れている。
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