昔っからのEVメーカーが作るクルマは一味違うぞ!
街を見渡せば充電スポットがにょきにょきと生えてきていて、EVの時代がやってきたと感じられる今日このごろ。カーボンニュートラルを目指すこともあり、世界中でさまざまなEVが生まれ育っていくでしょう。
だからこそ知りたいのが、EVの「へえ!」と思えるところ。車両デザインや車内空間の広さといった、ウェブサイトでわかるところだけじゃなくて、濃ゆいところを知りたい!と思っていたところ、日産さんが「EVのモーター制御について、お話しますよ」とコアなお答えで応えてくれました。
モーターなんて、まさに子供の頃から大好きだったロマンが詰まったメカ! その細部に詰まったテクノロジーを考えるとワクワクしてきませんか? ……あれ?そういえば日産さんって、いつからEV作ってるんだっけ……?
▼撮影時にガイドしていただいた方
福地 永さん:日本マーケティング本部 ブランド&メディア戦略部
▼オンライン取材を受けていただいた方々
中島 孝さん:パワートレイン・EV技術開発本部 エキスパートリーダー
丸山 渉さん:パワートレイン・EV技術開発本部 電動パワートレインプロジェクトマネージメントグループ 主担
藤原 健吾さん:企画・先行技術開発本部 先行車両開発部 主担
日産の歴史を紐解くと…初代EVは70年以上前に作られてた!
日産を代表するEVリーフが生まれて10年後の2020年。グローバル累計販売台数が50万台に達し、日本のEVとして高いシェアを誇る1台となりましたが、実は日産は、リーフ以前からもEVを作り続けてきたのです。日産自動車が1966年に合併したプリンス自動車工業、その前身となる東京電気自動車は、1947年には「たま」という電気自動車を製造。つまり、ルーツをたどると70年以上ものEVの歴史を持つメーカーというわけ。
「日産のR&D(研究開発)のなかに、「名車再生サークル」という有志の活動があります。そこで2012年くらいに、1947年に作られた電気自動車のたまがレストアされました。たまという車を紐解いて考えてみると、リーフのルーツのひとつであるなと実感しました」(中島さん)
1970年代にはEVトラック「Nissan EV4-P」、1980年代にはリゾートホテル向けの「EVリゾート」や、EVごみ収集車を開発。1990年となると高級セダン「プレジデント」などをEV化。特にミニバン「プレーリージョイEV」は、最高速120km/h、一充電当たりの航続距離が200km以上となるなど、当時としては極めて高い性能をもったEVでした。
「2000年には「ハイパーミニ」という軽EVも開発しました。開発スタッフの一部では、その頃から電気自動車の風が吹くだろうと言っていました。だからEV時代に備えて、モーターやインバーターといったパワーエレクトロニクスの基盤技術を高めていかなければならないと考えていました」(中島さん)
同じモーターの型番でも出力が倍になった!
そして2010年、ついにお目見えした初代リーフは、最高出力80kWのモーターEM61を搭載していました。マイナーチェンジ時には、パワーは同じで、一充電走行距離が200kmから280kmに増えたモーターEM57が使われました。そして現行のリーフは、モーターの型番こそEM57と同じですが、パワーもトルク(回転力)も、走行距離も大幅にアップしたのです。
「初代のリーフを作ったときには、あまり“電気自動車にパワーを求める”という思想がなかったんです。もともとバッテリーが出せるパワーに基づいて、長距離を走れるようにとか、他の思想でモーターの大きさが決まっていたんですね。その後、二代目の現行リーフを作るとなったときに、改めてどれくらいのパワーを出せるかとテストしたら、モーターはほぼそのままで倍の出力が出せるようになりました。具体的には、バッテリーの電圧をできる限り使い切るという制御技術を磨いていきました」(藤原さん)
初代リーフに新しいモーターおよびバッテリーを載せて実験したところ、他の開発スタッフも「この加速力はすごいね」と。パワーが正義だということを理解してもらったそうです。
「最初の頃はパワーを出すと航続距離が減っちゃうので、電費を良くするために高速道路でもパワーを抑えて走る設計にしており、パワーは二の次だとなっていたんですね。しかしだんだんと電池の容量が大きくなってきて、走っていてすぐに電池切れになっちゃうってことがなくなってきました。また航続距離が伸ばせる電池は、パワーも引き出せるんですよ。初代リーフを作ってからのこの10年は、モーターの制御技術も高まったしバッテリーの性能もよくなった。いろんな技術革新がバランスよく起きてきたという実感があります」(中島さん)
しかしe-パワートレインの小ささには驚かされます。モーターもインバーターも充電器もDC/DCコンバーターも減速機も、内燃機関車で言うところのエンジンとトランスミッションに当たる部分がすべて詰まっているだなんて。
怒涛の加速で魅せるけど実はパワーを抜いている?
そして、EVの強みといえば、その加速力。スタートダッシュの力強さはスポーツカークラスで、高速道路での合流も安心できます。
「ガソリンエンジン搭載車両と比べて、力が立ち上がる時間がひと桁早いのがEVの特徴です。その上で大型セダン級のトルクがあります。今までのスポーツカーとは違ったスポーティさが感じられる魅力もありますね」
「エンジンは、空気を吸わないとトルクが出ないけど、空気の流れができるまでに時間がかかるのと、パワーを出すためには回転を上げる必要があるんです。だからガソリンエンジンの車は、アクセルを踏んでからエンジンの回転数が上がるまで待たないと、期待したパワーを引き出せないのです」(中島さん)
ところが、実はリーフでも、減速中(つまり回生ブレーキがかかっている状態)からアクセルペダルを思いっきり踏み込んだ場合は、モーターをいきなりフル加速状態にはさせず、トルクをかける→かけない→かける→かけない、とトルクを絶妙に増減させながら加速させているそうです。いったいどういう理由でそんな制御をしているのか。そこには振動対策という命題がありました。
「減速から再加速の際にモーターのトルクをストレートに立ち上げてしまうと、ドライブシャフト(エンジンやモーターの駆動力をタイヤに伝える部品)がねじれて振動します。その振動を打ち消すために、加速時にあえてトルクを抜く制御をしていいます。また、絶妙にトルクを増減させる制御はギアのバックラッシュ(隙間・遊び)からくるノイズ対策ともなっています。ギアをスムースに動かすためには噛み合う部分に隙間を作らなければならないのですが、トルクを一直線にかけつづけると歯車が隙間部分まで回ったとき、抵抗がないから勢いよく回転してしまい、歯車と歯車がぶつかって音が出てしまうんですね。そこで、歯車が隙間の部分まできたときはトルクを抜き、噛み合ったときだけトルクをかける制御をしています」(藤原さん)
細かすぎィィ!
アクセルペダルひとつで、加速も減速も自由自在
現行リーフには、アクセルペダルの踏み加減ひとつで加速も減速もできるe-Pedalが搭載されています。実際に乗ってみると、このe-Pedalがすごい。減速感がブレーキペダルを踏んだときのように自然。運転している自分が「いまブレーキペダル踏んでいるっけ?」となるくらい、自然なのです。パワーを引き出すだけではなく、回生ブレーキとして電力をチャージしながらもドライバーに違和感を感じさせないモーターの制御技術が日産EVのポイントといえましょう。
「e-Pedalを搭載した旧型のリーフを作っていろんな人に乗ってもらうと、気に入ってくれて仲間が増えてくるんです(笑)。そして我々e-パワートレインの開発チーム以外の人や、オトシン(音・振動)評価担当の人など、それぞれのエキスパートの仲間が増えてきて評価や作り込みが上手くいったという流れなんです」(中島さん)
特に坂道で、自然な感覚のまま 減速するまでの制御を詰めるために、最初の公道実験は坂の町サンフランシスコで行なったそうです。あの街は25%とか30%といった激坂があちこちにあるので、テストするにはこの上ないロケーションだったそうですよ。
二輪駆動でも圧倒的な雪道の走破性はモーター制御技術がポイント
2019年2月に北海道で開催された「Nissan Intelligent Mobility 雪上試乗会」で現行リーフ e+に乗りましたが、雪道の安定感もバッチリ。
通常、雪道は四輪駆動のほうが安定していて、二輪駆動は不安定だといわれますが、二輪駆動のリーフ e+はきめ細やかなモーター制御によってトルクをコントロールし、凍結路であっても危なげなくコーナリングできましたし、 加速も減速もできました。人間より早く“タイヤが滑ったかどうか”を察知し、レスポンス性の高いトルク制御によって、普通の道のような感覚でドライブできるんですよリーフ。すごくない?
「1万分の1秒、100マイクロ秒でモーターを制御するプログラムを組み込んでいます」(丸山さん)
「車載できる組み込みマイコンでこのスピードを出すのは結構大変なんです。極力シンプルな作りで実装しましたが、そこにはいろんなノウハウや努力がありますね」(中島さん)
さらに、モーター制御のチューニングで車両の性格を変えられるのもEVのメリット。 リーフNISMOはよりダイナミックな加速感が味わえますし、EVバスやEV救急車なども、地域の道の状態に合わせて最適なセッティングができるそうですよ。
EVだからこそ明らかになったノイズ、そして新たな価値
エンジンや吸気・排気のノイズがないため、静粛性に優れるEV。しかし車内が静かだからこそ、聞こえてきてしまった新たなノイズが気になってきたそうです。
「初代リーフを作ろうとなって、ハイパーミニをいじっていたとき、社内の人から「EVって、ハンドルにおいた手の擦れる音が聞こえるようになるんだね」と言われまして。確かにレザーとプラスチックでは音が違うんです。静粛性が高まったことで、今まで気にならなかったことに質を求めるようになったとか、ここから新たな価値が生まれていくんだという発見がありました」(中島さん)
ガソリンエンジンの車と比較して、EVを作るのは簡単じゃないか。そう感じている方もいるかもしれません。モーターとバッテリーと車体があれば作れるんじゃないかと。
そんなこたぁない。ルーツをたどれば1911年から車の製造に着手し、1947年には時代を先取ってEVを作ってきた日産です。いち早く自社でのモーター開発やモーター制御技術の研究開発を進めてきた彼らが手掛けた日産リーフは、極めて評価の高いEVとして世の中に浸透しています。
良質な車作りを続けてきて、乗る人に心地いいと感じさせる知見を持っているメーカーだからこそ、上質さを感じさせる高品質なEVが開発できるんだ。その学びとなりました。見えないところへの気の配り方が素晴らしい日産のEV。チャンスがあったら一度乗ってみて!
Source: 日産自動車