KDDIは1月28日、2022年3月期 第3四半期(2021年4月~12月)の決算説明会を実施しました。登壇したKDDI代表取締役社長の高橋誠氏は、記者団の質問に答えるカタチで「楽天モバイルからのローミング収入」「iPhoneが投げ売られている現状」「3G回線の巻き取り状況」「値下げしても増収増益した理由」「DAZNのセットプラン」などについて言及しました。
第3四半期 累計の連結売上高は4兆138億円(前年同期比2.3%増)、営業利益は8,746億円(同0.4%増)でした。高橋社長は「通期予想に対して順調な進捗」と評価します。
マルチブランド通信ARPU収入が564億円の減益となりましたが、グループMVNO収入とローミング収入が634億円の増益となり、モバイル通信料の収入としては70億円の増益。成長領域(ライフデザイン領域とビジネスセグメント)は168億円の増益となっています。トータルでは、前年同期比で35億円の増益です。
マルチブランド戦略について
記者団の質問に、高橋社長が回答していきました。
初めの質問は、グループID数の純増について。プレゼンでは『マルチブランド戦略』が寄与したとの説明があったが、と問われると「第3Qは非常に頑張りまして、純減ペースだったものが第3Qで4.8万台の純増という形になりました。モーメンタムの回復にとって良かったかな、と思います。コストコンシャスな方がauからUQ mobile、povoに1割くらい移行されると見込んでいましたが、auの割引施策やiPhone販売が奏効しました。多くの方にauにとどまってもらえた(1割までいかなかった)。一方でUQ mobile、povoも順調に数字を伸ばしており、合わせて五百数十万程度まで持ち上がっています。UQ mobileも400万を超え、povoも100万を超えているので、こちらの方も順調。UQ mobileからauに移行するお客様も前年比で2.6倍ぐらい増えました。5Gプランを選ぶ6割の方が無制限プランという構造です。au、UQ mobile、povo内の循環がうまく行き始めてる、という理解です。全体的に非常に良い形でモーメンタムが回復してきているかな、と思います」。
楽天モバイルとの契約
次は、今期の増益にも寄与したローミング収入について。来期以降は楽天モバイルとの契約も縮小傾向だが、と聞かれると「ローミング収入の内容までは開示できない」と断りつつも、大きな収益になってきたと高橋社長。そのうえで「楽天モバイルとの契約の通り、徐々に縮小の方向で進んでいます。でも第3Qについては、まだ引き続きローミング収入が増えている状態です。一定の計画で、徐々に減っていくということです」。2025年に向けて少しずつ減っていく、と繰り返します。楽天モバイルは、エリアの70%を自社回線でカバーできたところからauのネットワークを引き上げていく、と説明していますが、まだ8エリアについて70%に満たないと明かし、「このあたりがまだ来年は残ってくるのかな、と思っています」。
また、「料金値下げで通信料収入が減るなか、ローミング収入で補ってきた、という見方がありますが、それは正しいと思います」と高橋社長。それを認めたうえで「ローミング収入により、3G回線の終了を他社よりも早められたメリットがありました。これが非常に大きかった。来期は3Gのための設備が終了していきます。償却費用、オペレーションコストがドンと減ってきますので、楽天からのローミング収入が減っても十分に補えると思っています。消費電力もだいぶ減りますので、ゼロカーボンにも貢献できる。非常に良かったかな、と思います。22年度は、料金値下げの分を5Gで取り返していく重要な年になると思っています」。
人口カバー率90%に向けて
5Gの設備投資について、また人口カバー率90%を達成する時期について聞かれると「5Gの投資は、これからも積極的にやっていきます。今週話題になったのは、日本の通信料金が世界の中でも最安値になったということ。ICT総研さんのレポートです。アメリカでは20GBで7,300円ほど、でも日本は2,445円だった。消費者物価指数(CPI)を下げる結果にはなりましたが、値下げについて一定の成果は出たのではないか。岸田政権の中で、デジタル田園都市国家構想ということで『成長と分配』がテーマになっていますが、成長のど真ん中に5Gの展開が挙げられたことが、我々にとっては前向きなサイクルにもなってくる。投資は大変ですが、良かったと思っています。23年度までに人口カバー率90%を求められているんですが、我々としては、今年度末までに90%に持っていきたかった。新型コロナウイルスの問題、半導体不足もあって若干、遅れているんですが、これについては22年度のできるだけ早い時期に達成したいと思っています」。5Gを利用して、地方を活性化させる事業についても進めていくとしました。
iPhoneが投げ売られている?
DAZNとのパック料金を発表したことについて聞かれると、「5Gの展開のために利用シーンを提案することも積極的にやっていかないといけない。5Gになって、ネットワークが高速道路のようになり、なおかつスマートフォンのパフォーマンスも非常に上がってきた。その関係で、当たり前ですが(4Gと比較して)5Gのトラフィックは2.5倍以上まで上昇しました。お客様が何をどのようにお使いになっているのか考えたときに、OTTパートナーのコンテンツは、特にこのオミクロンの時期において非常に増えてきています。そこで、我々がいち早く始めたオールスターパックを、より魅力的なものにしていこうと思いました。OTTパートナーのサービスを9,988円で提供します。非常に良い料金で提供できたかな、と思います」。昨日もサッカー日本代表戦を見ていたけれど、次のオーストラリア戦はDAZNの独占放送と出ており、ぜひ我々のサービスでご覧いただけたら、と高橋社長。
一部ではiPhoneが投げ売りされていることについて認識を問われると、「事業法の範囲内で対応しておりますし、端末の値付けについては代理店が決定していると思います。僕の所感では、お客様はスマートフォンを購入されるとき、端末代金を非常に重視されているということ。それを改めて感じました」。
3G回線の巻き取り状況
3G回線の巻き取り状況については「どの程度残っているかは開示していないのでお答えできませんが、11月29日に3G終了のニュースリリース、そしてPRをやっておりまして、認知も進んでおります。ほぼ計画通りに進捗していると思います。オミクロン株の流行もあり、まだ現場ではバタバタもしておりますが、3月終了に向けて順調に進んでいます」。
NTTドコモが『ドコモでんき』で新規参入するが、と聞かれると「我々の方としても、いままで培ってきたノウハウを活かしながら引き続き伸ばしていけたら。基本的にau、UQ mobileのお客様を中心に今後も拡大していくとともに、実はホワイトレーベルと言いまして、他の事業者様のネーミングで、我々がバックヤードを務めることも始めています。いいだのでんき、BIGLOBEでんき、UQでんき、じぶんでんき、グランパスでんき、モンストでんき、といったものです。そういうパートナーさんとも一緒に広げていくことで、ドコモさんが市場に入ってこられてもしっかり拡販を進めていきたいと思っています」。
値下げしても増収増益?
携帯電話料金が下がったのに増収増益となった理由を聞かれると、「値下げの影響がかなり出ています。我々の業績予測では、通信料金の減収幅は年間あたり600億~700億円を見込むと申し上げましたが、実はもう少し膨らんできています。我々は民間企業なので『であれば減益します』というわけにもいかないので、これを増益に持っていくために、やらなきゃいけないことがたくさんある。売上最大、経費最小を社内のスローガンにしています。例えば5Gを広げることによって、トラックが2.5倍になる。お客様がそれだけお使いになる、ということを手がかりに、通信ARPUをもう1度、上げていかなきゃいけない。実はこれを実現できているのが米国や韓国なんです。我々も、もっと5Gを頑張って、お客様に素晴らしいサービスをお届けしていかないといけない。一方、通信だけで成長していくのは限界があるので、我々の成長領域、DXをベースにしたビジネス、それから電力、金融などでトップラインを上げていく。同時に当然のことながら、血のにじむような努力でコストを下げる。これにより増益の道筋を作っています」。
オミクロン株への対応については「ネットワークのオペレーションについて、いままで東京一極集中だったところを、大阪にも拠点を作ってパラレルに運用できる体制になりました。オミクロンが出たとき、バックアップできるようなチーム編成も整えています。一方、カスタマーサービスも全国に10拠点以上あり、分散できています。社内の勤務体制も、週3日以上を原則にはしていますが、(各部署によって働く環境が変わってくるので)各事業部で最善の体制を検討して対応している状況です」。
DAZNセットプランの安さについて
「DAZN」のセットプランが安いが、これからもサービスを強化していくのか、と聞かれると「こうしたハイパースケーラー(世界的な大規模事業者)と契約するときには、いろいろな契約形態があります。取り次いでいくケース、卸していくケースなど。いろいろ協力しながら今回のパックプランを作っています。こうしたパックプランをお使いいただいた方の解約率は、極めて低いんですよね。だから、ライフタイムバリューが非常に高い。そういう効果も見定めながら、より魅力的なサービスにしていくことを考えています。私としては、他キャリアに先駆けてやってきた分野なので、これからも強化をしていく考えです」。
キャリアメールの持ち運び
キャリアメールを持ち運べるサービスが昨年(2021年)12月より始まったが、その影響については、と聞かれると「正直なところ、あまり影響はない感じです。総務省さんの意向があり、お客様の利便性の向上のためにということでしたが、これによってMNPの動きが活性化されたかというと、そうでもない気がします」。
新しい子会社で展開するドローン事業については「詳しい話は2月初旬に説明会をやろうと思っています。スピンオフベンチャーのような形で、若手を登用する考えです。ドローンは、これからの新しいビジネスの形。専門性が必要な領域でもありますので、専門的な知識を持った人たちもその会社の中に集えるようにする。機動的に物事も決められるでしょう。ドローンにともなう法制度もできてきました。これまで通信事業者は電波を地上で使うことを前提にしていましたが、制度改正により、これからはドローンのようなもので我々の周波数を使えるようになりました。会社でもサポートできれば、面白い事業になってくると思っています」。
モバイル業界のトレンドについて
ドコモではエコノミーMVNOなども出してきたが、今後の市場の競争関係は、トレンドはどうなる、といった質問には「ドコモさんのエコノミーMVNOにはpovoで対抗できると考えています。マルチブランド戦略をこれ以上拡大することは、現時点であまり考えておりません。一方、MVNOについてはジェイコム、ビッグローブでサービスを提供しています。正直なところ、値下げやマルチブランドの話は各キャリアとも一息ついている感じがあります。お客様のご期待にも応えてこれたと思ってます。引き続き、お客様には分かりやすい料金の提示をしていくとともに、これからは5Gの展開に軸足を移します。日本全国に5Gを展開して、そこにDXを絡めてさまざまなサービスの付加価値を上げていく。こちらのほうが日本にとっても重要だと思っています」と回答しました。
近藤謙太郎
こんどうけんたろう1977年生まれ、早稲田大学卒業。出版社勤務を経て、フリーランスとして独立。通信業界やデジタル業界を中心に活動しており、最近はスポーツ分野やヘルスケア分野にも出没するように。日本各地、遠方の取材も大好き。趣味はカメラ、旅行、楽器の演奏など。動画の撮影と編集も楽しくなってきた。
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