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半導体、危うい国ぐるみ増産(The Economist)

沿って mobilephones 13/06/2022 940 ビュー

このところの半導体不足は、玩具向けから風力タービン用まで、あらゆるものの生産の足かせとなっている。そのため半導体メーカー各社は、すさまじいばかりの設備投資に走っている。

大規模増産に走る半導体各社

半導体受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は1月13日、2022年の設備投資が最大440億ドル(約5兆円)に達すると発表した。21年の300億ドルを上回り、19年の3倍に相当する。同社は昨年4月に生産能力拡大に3年間で1000億ドル強を投じると発表していたが、それをも上回る規模だ。

競合の米インテルも今年、280億ドルを投じる計画だ。同社は1月21日、25年までに200億ドルかけて米オハイオ州に大規模工場を2つ建設すると発表したが、さらに6つを新設する可能性も示唆した。その場合、総投資額は1000億ドルに達する。

TSMCに次ぐ半導体大手の韓国サムスン電子は、22年の設備投資額は昨年の330億ドルを超えると示唆した。独インフィニオンテクノロジーズなど、比較的小さな半導体企業も投資を増やしている。

米調査会社ICインサイツの推計では、半導体業界全体の21年の設備投資額は前年比34%増で、17年以来の大きな伸びとなった。この投資の急増ぶりは、過去1年にわたり半導体不足に苦しんできた顧客企業にとって歓迎すべき知らせだ。だが半導体業界にとっては、これは過去に何度も繰り返されてきたおなじみのパターンにすぎない。

1月26日にはインテルが、翌日にはサムスンが業績を発表し、いずれも大幅に売上高を伸ばした。売上高拡大が生産能力の拡大を後押ししているが、半導体工場の建設には2年以上かかり、完成を待つ間に需要が減ってしまうことがある。そのため、こうした好況が一気に消え去ることも少なくない。

過剰投資と過小投資を繰り返す半導体業界

半導体事業は1950年代の草創期から、過剰投資と過少投資を何度も繰り返してきたと英調査会社フューチャー・ホライゾンズのアナリスト、マルコム・ペン氏は指摘する(左のグラフを参照)。過去を参考にするなら、現在は供給過剰に向かっていることになる。問題は、いつ過剰に陥るのか、だ。

多くのアナリストは、スマートフォンに対する需要は、特に世界最大のスマホ市場である中国を中心に近く落ち着き始めるとみている。新型コロナウイルス感染拡大によるロックダウン(都市封鎖)に伴い需要が急拡大したパソコンの販売にも陰りが見えてきたようだ、と米調査会社ガートナーのアラン・プリーストリー氏は指摘する。

半導体、危うい国ぐるみ増産(The Economist)

米金融大手モルガン・スタンレーの調査では、半導体を購入する企業の55%が半導体の供給不足という理由も手伝って二重発注していることが判明、このことが需要をさらに拡大させている。

インフレ率が上昇し、近々金利が引き上げられると経済成長にブレーキがかかる恐れがあり、その場合、半導体需要にも影響は及ぶ。ペン氏は、今年下半期か23年の早い段階に半導体のサイクルは供給過剰に転じるとみる。

今回のサイクルが従来とは異なる理由

ただ、今回は供給過剰に転じても、半導体メーカー各社に及ぶ影響はメーカーによって異なるかもしれない。TSMCの最高経営責任者(CEO)、魏哲家氏は1月13日、同社は技術的に最先端にいることから需給調整の影響はあまり受けないだろうと語った。同社の新規生産能力の大部分は、すでに米アップルをはじめとする顧客との長期契約に振り向けることが確定しているからだ。アップルは、最新のiPhoneを投入するたびに最先端の半導体の供給を必要とする。

今回の半導体サイクルが従来とは異なるかもしれない理由がもうひとつある。今の半導体不足および技術競争の色合いを帯びた米中貿易戦争を前に、政治家が現代経済にとって半導体がいかに重要であり、その供給をいかにほんの一握りの巨大企業に依存しているかを再認識したからだ。

半導体分野では一部の企業による寡占化が進みすぎているとの懸念から、複数の国、地域の独占禁止法当局は米半導体設計大手エヌビディアが英国の競合、アームを400億ドルで買収する計画に待ったをかけた。同買収計画は取り下げられるという報道が1月25日に出たが、これが本当だとすれば当局の介入が奏功したことになる。

しかし、少数の大手への依存度を解消する手段として各国政府が選んだ対策は、補助金を出して半導体製造を海外(主に東アジア)から自国に引き寄せる方法だ。米商務省は1月25日、これを実現させるべく半導体メーカーに520億ドルを投じる法案を可決するよう議会に求める趣旨の報告書を公表した。上院は既にこの法案を承認している。

TSMCの劉徳音董事長は、米アリゾナ州に新工場を建設する際、多額の補助金提供がない限り、計画を進めることはできないと20年に率直に語っていた。TSMCは海外に工場をあまり持たない。インテルが工場建設地にオハイオ州を選んだ理由の一つも同州が提示した優遇条件にある。同社のゲルシンガーCEOは、工場新設を巡り優遇策を提示できる財政的余裕のある州を回っていた。

自国での半導体生産の誘致に力を入れる各国政府

欧州連合(EU)も何百億ドルもの財政負担が生じるかもしれないが、米国に対抗しようとしている。EUの世界の半導体生産における現在のシェアは10%前後だが、これを倍増させようとしている。

韓国政府は昨年5月、韓国を代表する産業を保護し、発展させるため、企業の設備投資に今後10年間で4500億ドルの資金を投じる使命があると発表した。日本の政府も昨年11月に半導体産業の支援策を発表。TSMCはこれにより約35億ドルを(編集注、熊本県に建てる先端半導体工場への補助金として)得ると思われる。

中国は米国による制裁への反発も手伝い半導体は他国に依存しなくてすむよう全て自国で担うべく産業を育成する野心的計画を進めているが、今のところ成功していない。

半導体メーカー各社の積極的な設備投資計画に加えて税金まで投じれば、生産能力の過剰はさらに膨れ上がる可能性があるとペン氏は指摘する。つまり、政治家も半導体企業経営者らも立ち止まって考える必要がある。好況の度合いが大きいほど、その後にくる落ち込みは厳しいものになる。

(c) 2022 The Economist Newspaper Limited. January 29, 2022 All rights reserved.

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