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メイク・イン・インディアの成果に夜明け?(インド) 貿易赤字からひも解く経済構造

沿って mobilephones 13/08/2022 641 ビュー

「メイク・イン・インディア」政策の下、対外的に、高関税など国内産業保護ともとれる措置をとるインド。一方では、国内製造をする外国企業向けには優遇策を講じる。前者については、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定交渉からの脱退も記憶に新しい。2021年2月には2021年度(2021年4月~2022年3月)予算案で関税引き上げを発表した。後者に関しては、売上高に応じて補助金を支給する生産連動型奨励金(PLI)スキームといったインセンティブを国内で特定製品を製造する企業に用意、iPhone製造受託の台湾メーカーなどが活用し、インドで生産拡大する。

インドは、なぜこうした動きをとるのか。また、それは期待どおりに進んでいるのだろうか。構造的な問題として語られる貿易赤字を、ひも解きながら考えたい。

「メイク・イン・インディア」の「アメとムチ」

「メイク・イン・インディア」は、モディ首相が就任した2014年から掲げる、製造業振興のスローガンだ。投資環境の整備を通じて、直接投資誘致を促進し、GDPに占める製造業の割合を15%から25%に引き上げる目標を掲げる。その結果として、新たな雇用の創出、貿易赤字の縮小、さらには輸出の拡大を目指す。

インド政府はこの方針の下、国内製造業保護と高付加価値の部品の国産化を推進する。対外的には、特定製品への基本関税引き上げ、輸入規制を行う。2021年度予算案では、電気・電子部品分野で充電器や携帯電話のプリント基板などの部品、家電分野で冷蔵庫とエアコンのコンプレッサーなどについて、基本関税が引き上げられた(2021年2月12日付ビジネス短信参照)。2020年10月には、冷媒入りエアコンの輸入禁止措置が導入されている。

一方、インド国内に進出する外資企業に向けては、多くの分野を開放、投資を積極的に誘致する。特に、製造業の呼び込みには熱心だ。法人税の引き下げ(2020年10月1日付ビジネス短信参照)や国内生産を促す生産連動型奨励金(PLI)スキーム(2020年5月21日付ビジネス短信参照)といった優遇策がとられる。

新型コロナ禍にあっても、インド政府は2020年5月、「自立したインド(Self-Reliant India)」を打ち出し、「メイク・イン・インディア」の強化、さらには、グローバルサプライチェーンの確立や輸入依存度の低減を表明している(2020年5月14日付ビジネス短信参照)。

IT大国がゆえの経常赤字と貿易赤字

インド政府は、なぜ、こうした国内産業を保護する政策をとるのか。背景にある経済構造を見てみたい。図1の経常収支の内訳からは、貿易赤字を主因とする恒常的な経常赤字が見てとれる。黒字部分を稼ぐのは、サービス収支と第二次所得収支。サービス収支の大半は、ソフトウェア委託開発などといったコンピュータサービスで占められる。第二次所得収支については、その大部分を中東諸国への出稼ぎ労働者をはじめとした海外からの送金で黒字を確保している。

一方、大きな赤字となっているのが、貿易収支だ。2012年には、2,000億ドルに迫る貿易赤字を記録。一時は、原油価格下落により赤字が減少したが、これ以降も高い水準にあり、黒字のサービス収支と第二次所得収支では赤字を相殺し切れていない。

インドは、1990年代から欧米向けのITサービス輸出国として台頭してきた。そのため、ASEAN諸国と異なり、第二次産業(製造業)ではなく第三次産業(サービス業)が先に主要産業になった。そのため、サービス収支の黒字割合が大きい構造となっている。経済成長に伴い、家電製品、パソコンといった耐久消費材など、特に高付加価値製品の国内需要が増加する中、その需要の多くは輸入品によって賄われてきた。その輸入分を国内生産で代替できる産業、さらに輸出により黒字を稼げる産業が育っていないのが現状だ。

メイク・イン・インディアの成果に夜明け?(インド)
貿易赤字からひも解く経済構造

対中貿易赤字に懸念

より詳しく国別に、輸入の状況を見ると、中国からの輸入超過、特に電気機器(HSコード:85)が大きく影響していることが分かる(図2参照)。貿易赤字に占める対中赤字割合は、2016年度には53%に上った。以後も3~4割程度の割合を占める。特に影響の大きな品目は、携帯電話を含む電気機器だ。対中赤字全体の中で、4割前後を占める。

経済成長に伴い、今後も電気機器を含む需要の増大が予想される中、対中赤字の解消は喫緊の課題になっている。実際、2020年11月のRCEP離脱の理由も、関税引き下げによって、赤字が膨らむ中国からの輸入がますます増加することを恐れているからだ、という声が大きいようだ(2020年11月15日付タイムズ・オブ・インディア紙 )。

インドから中国への輸出額も増加してはいる。しかし、インドは相対的に低付加価値品を輸出しており、対中貿易赤字を補うには至らない。中国への2020年の輸出額は、前年比16.2%増の209億ドルと、初めて200億ドルを超え大きく伸長した。これらを押し上げたのは、鉄鋼石、鉄鋼、アルミニウム、銅など。一次産品や金属類の割合が大きい。一方、工業製品が対中輸出に占める割合は極めて低い。そのため、インドは高付加価値製品の輸出拡大に注力すべきだとする報道も目立つ(2021年2月23日付ビジネス・ライン)。

メイク・イン・インディアの成果は?

ここまで、インドの貿易構造を見てきた。「メイク・イン・インディア」による製造業振興策の重要性は、輸入代替の実現と高付加価値製品の輸出を可能とする産業育成にあることが分かる。では、「メイク・イン・インディア」の推進は、こういった課題に対して、成果を残してきたのだろうか。

製造業全体で見ると、「メイク・イン・インディア」にて掲げる製造業割合向上の目標については、まだ大きな効果は見えない。GDPにおける製造業のシェアは、2020年時点では17%。政府の掲げる25%の目標に達していない。

しかし、個別に見ていくと、成果が出ている分野もある。携帯電話の分野では、高関税政策に加え、段階的に各種部品の関税率引き上げを行う「段階的製造プログラム(PMP)」を導入。携帯電話の国内生産台数は2014年の6,000万台から、2017年にはその4倍に迫る2億2,500万台にまで拡大した(2019年3月12日付ビジネス短信参照、2019年6月24日付地域・分析レポート参照)。過去数年間で、iPhoneの製造受託を手がけるフォックスコンやウィストロンなどの台湾メーカーや、サムスン(韓国)、シャオミなどの中国メーカーなど、産業集積と生産拠点拡大が進む。折しも、米中貿易摩擦の激化を受けた生産拠点分散の動きが有利に働いた、とする報道もある(2019年6月12日付「ライブミント」紙)。2014年に74億3,000万ドルだった携帯電話(HSコード:851712)輸入額は、2019年には8億6,000万ドルにまで減少。また、輸入総額に占める中国の割合も2020年には6割にまで低下している。2017年のこの割合は、97%を占めていた(図3参照)。

輸出にも成果

こうした携帯電話のメーカーの販売は、基本的には内需向けだ。とは言え、輸出にも取り組み成果が出てきている。携帯電話の輸出額は、2017年には1億4,000万ドルにすぎなかった。しかし、2020年には、コロナ禍の中、30億1,000万ドルにまで拡大している(図3参照)。PLIスキームなど、政府の優遇策の活用が進んだこともこの背景にある(2021年3月18日付ビジネス短信参照)。

このように、中国からの大きな輸入品目だった携帯電話分野では、国産化、輸出産業へのシフトが進んだ。外資誘致、輸入代替、そして輸出拡大が同時に実現できた例といえよう。まさに、「メイク・イン・インディア」が目標とするところだ。

ほかにも、アマゾンは2021年2月、Fire Stick TVの生産拠点を南部タミル・ナドゥ州のチェンナイに設置する計画を発表した。2025年までに累計100億ドルの輸出を約束する、とコメントしている。これは、供給拠点である中国への依存を減らす動きでもあるようだ(2021年2月17日付タイムズ・オブ・インディア紙)。インドに生産拠点を置く動きは、着実に進んでいるといえるだろう。

その他の分野ではどうか。一般機械、電気機器、輸送機器でも、これまでの取り組みの結果、輸出割合が徐々に増加。2020年にはそれぞれがインドの輸出品目全体の5~6%程度のシェアを達成している。

成長戦略を着実に実行へ

インドは、インフラの未整備、税制・税務、行政手続きの煩雑さなどの理由で、進出企業にとってビジネス上の課題が多い国だとされてきた。そのような中、「メイク・イン・インディア」で構想されたのは、「ビジネス環境整備→外資誘致(技術移転)→国内製造業振興→輸入代替→輸出拡大」と順を追って、製造業振興と貿易赤字の解消を進める流れだった。

この流れに沿って考えると、輸入代替・輸出拡大は、部分的にしか進んでいない。しかし、大前提となるビジネス環境整備には、一定の成果がみられる。モディ首相は、物品・サービス税(GST)の導入、外資規制の緩和、各種許認可・手続きのオンライン化、破産倒産法などの法整備など、多くの改革を進めてきた。その成果は、世界銀行のビジネス環境ランキングを見ると、142位(2015年)から63位(2020年)への大幅上昇に表れている。

産業育成や経済構造の変革は、当然ながら即座の実現は困難であろう。製造業振興の先にある輸出拡大実現には、年月を要するだろう。しかし、インドは、自ら描く成長戦略を着実に実行し、一部ではその成果が表れ始めているといってもよいかもしれない。

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