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携帯料金の引き下げが早期実現──プロセスには非常に多くの問題(佐野正弘)

沿って mobilephones 24/01/2023 563 ビュー

現・内閣総理大臣で自民党総裁の菅義偉氏が、29日に投開票が実施される自民党総裁選に出馬しないことを表明しました。これをもって菅氏は事実上、任期の2021年9月末をもって総理を退任することを表明したこととなります。

菅氏は2020年9月、前首相の安倍晋三氏の病気による辞任を受けて急遽総理に就任した訳ですが、元々の任期通り約1年での退任となり、その後の国政は後継に託す形となるようです。ですが菅総理は、筆者が常々追いかけている携帯電話業界に対し、この短い期間の間に非常に大きな影響を与えていることから、携帯電話を主体とした菅政権の通信行政を改めて評価してみたいと思います。

総務大臣を経験し総務省に大きな影響力を持つとされる菅氏は、総理就任前から携帯電話料金の引き下げに非常に熱心なことで知られていました。そのため総理就任後は携帯料金引き下げが菅政権の政権公約の1つとなり、菅政権下で総務大臣に就任した武田良太氏を通じて従来以上に携帯電話料金の引き下げにまい進することとなりました。

実際、総務省は菅政権下の2020年10月に「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」を打ち出し、最近ガイドラインが打ち出されたSIMロックの原則禁止やeSIMの促進など、事業者間の乗り換えを促進して競争を加速するためのさらなる施策を打ち出しました。ですが真に料金引き下げが進んだきっかけとなったのは、その後に携帯3社が投入した、いわゆるオンライン専用プランでしょう。

改めてその動向を振り返りますと、先のアクションプランを受けて2020年10月末にKDDIやソフトバンクがサブブランドを通じ、通信量20GBで月額4000円前後の料金プランを打ち出しました。武田大臣も当初はこれらプランを評価するような発言をしていたのですが、2020年11月になると突如手のひらを返し、メインブランドでの料金引き下げでなければ認めないかのような発言をしたのしたのです。

これが携帯大手3社に対する非常に強いプレッシャーとなり、投入されたのがオンライン専用プランです。NTTドコモが通信量20GBで月額2980円(当初の税別料金)というオンライン専用プラン「ahamo」を打ち出して大きな評判を呼んだのを皮切りとして、KDDIが「povo」、ソフトバンクが「LINEMO」を打ち出したことで、20GBの大容量が低価格で利用できるサービスの充実が進んだことは記憶に新しいかと思います。

その結果、総務省の「電気通信サービスに係る内外価格差調査」において、2019年度には世界主要6都市の中で最も高いとされていた日本(東京)の20GBプランの携帯電話料金が、2020年度の同調査では2、3番目に安い水準へと大幅に引き下げられました。他にも使い放題プランなど多くのプランの料金が引き下げられており、菅政権の公約通り携帯電話料金の大幅な引き下げが短期間のうちに実現され、消費者にメリットがもたらされたことは確かでしょう。

ですがそのプロセスには非常に多くの問題があったというのもまた正直な所です。一連の料金引き下げは菅政権による業界への圧力による所が非常に大きく、これまで総務省が取り組んできたルールの整備による競争の結果、もたらされたものではないからです。

それゆえオンライン専用プランが登場したプロセスには不可解な点も多く見られました。NTTドコモはahamoをサブブランドではなく、あくまでメインブランドの料金プランの1つとしていましたが、発表当初はドコモショップでのサポートを一切提供せず、ファミリー割引の対象にもならないなど、従来の「ギガホ」「ギガライト」などとは全く異なる仕組みでした。それに加えて発表会では随所にサブブランドとしてahamoを提供しようとしていた様子が見られるなど、不自然さが残る部分が多かったことを覚えています。


 携帯料金の引き下げが早期実現──プロセスには非常に多くの問題(佐野正弘)

にもかかわらずahamoの発表後、菅総理や武田大臣はahamoと見られるプランを指して「メインブランドによる料金引き下げ」であることを絶賛するかのような発言をしていました。先の内外価格差調査で東京の20GBプランの料金が大幅に下がったのも、ahamoが2021年3月、つまり2020年度内にメインブランドのプランとして提供されたからであり、メインブランドにこだわったのは菅総理が問題視していた内外価格差調査で、明確な料金引き下げ効果を打ち出すためだったのではないか?という疑問も沸く所です。

NTTドコモを巡っても、日本電信電話(NTT)が2020年9月に突如完全子会社化を発表したことには疑問の声が挙がっていました。なぜならこの動きはNTTの大株主であり、これまでNTTグループの分離・分割を進めてきたはずの政府が、NTTグループが再び集結し強大化することを認めたことにもつながってくるからです。

しかもその後、NTTによる総務省幹部への高額接待が報道で明らかになったことで、菅総理から高い信頼を得ていたとされる総務審議官(当時)の谷脇康彦氏ら多くの総務省幹部が処分を受け総務省を去る事態にも発展。NTTグループを巡る不透明な出来事が、NTTドコモの子会社化などを疑問視する競合他社から怒りを買う事態を招いた結果、NTTは現在も、NTTコミュニケーションズらをNTTドコモの子会社にするなどの再編が進められずにいます。

そしてルール整備を通り越した強引な値下げは、健全な市場競争を歪めかねない結果をももたらしました。実際携帯大手の値下げやオンライン専用プランの投入により、安さを武器としてきたMVNOが対抗できない状況が発生、MVNOの業界団体であるテレコムサービス協会MVNO委員会が2021年1月に総務省へ緊急措置を求めるに至っています。

この時はやはり携帯大手に対し、MVNOにネットワークを貸し出す料金の引き下げを迫ることでMVNOが競争力を維持するに至りましたが、一方で携帯大手の側は一連の措置を受け、MVMOに遠慮しない姿勢も見せるようになりました。LINEMOの「ミニプラン」やUQ mobileの「自宅セット割」などでMVNOが得意とする小容量・低価格の領域に踏み込んできたことがその象徴といえ、MVMOがこの領域で競争力を失えば撤退する企業が相次ぎ、携帯大手による寡占が進む可能性も出てきています。

また参入間もない楽天モバイルも、大手3社が想定以上の値下げを打ち出してきたことで、2021年4月に1GB以下なら月額料金0円という色々な意味で従来の常識を大きく覆した「Rakuten UN-LIMIT VI」を提供。その影響もあってか、2021年3月には親会社の楽天グループが外部から大規模な出資を受けたのですが、その内容がまた物議を醸すものでした。

その1つは日本政府が大株主である日本郵政グループからの大規模出資であり、これを「実質的な政府による楽天モバイルの救済では」という見方をする向きは少なからずありました。そしてもう1つは中国テンセントの子会社からの出資を受けたこと。米中対立の真っ只中にありながら、通信会社を持つ企業が中国企業からの出資を受けたことを問題視する向きは多く、通信の外資規制にも議論が及ぶなどの波紋をもたらしています。

一連の動きを見れば、菅政権が料金引き下げという結果を急ぐあまり、ルール整備というプロセスを通り越して圧力をかけた結果、諸々のつじつまが合わなくなり通信業界、ひいては通信行政に至るまで非常に多くの問題や課題を残してしまったことが理解できるでしょう。携帯電話料金引き下げを菅政権の功績に挙げる声は多いようですが、携帯電話業界全体の発展を考えるとむしろマイナスの効果しかもたらさなかったのでは、というのが筆者の本音です。

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