9月16日、第99代内閣総理大臣に就任した菅義偉氏を中心とした内閣が発足した。前任の安倍晋三氏の路線を引き継ぐ内閣ではあるが、新内閣ならではの特色として、菅氏が官房長官時代にたびたび言及していた携帯電話料金の引き下げのほか、国のデジタル戦略を強化するために省庁の縦割りを取り払って横串の連携を可能にする「デジタル庁」創設が掲げられている点が挙げられる。
デジタル庁創設の中心にいるとみられるのが、新内閣でデジタル改革相に就任した香川県出身の平井卓也氏で、複数の報道によればマイナンバーカードを「デジタル社会のパスポートとして普及させていく」方針を示しており、筆者が本連載で触れた「マイナンバーカード普及の難しさ」を国の指針として乗り越えつつ、最終的に国内共通のデジタルIDとして活用していく意向とみられる。
また運転免許証についても、マイナンバーカードとの一体化やスマートフォンへの搭載も可能なデジタル化に向けた工程表を年内にもまとめる方針(日経新聞)とのことだ。
筆者は2010年に「『NFC(Near Field Communication)』技術を使った携帯電話とID(と鍵)のデジタル活用」を中心とした取材に軸を切り始めたが、紆余曲折を経て10年越しの展望がようやく実現に向かうのを目にしており、なかなか感慨深い。
2011年にフランスのニースで取材した「Cityzi(シティジィ)」サービス。街中のあちこちにNFCタグがあり、例えばトラムの停留所でタグを読み込むと最新の運行情報がWebを通じて得られる。今から考えると非常に原始的なアプリケーションだNFCという技術は外部の機器と通信を行なうためのトリガーにしか過ぎないが、「タッチする」というアクションを組み合わせることでさまざまなことが可能になる。また、NFC機能を持つスマートフォン内部のセキュアエレメント(SE)にさまざまな情報を格納することで、決済やドアロックの解錠、あるいは身分証の提示に使ったりと、アプリケーションとしての応用範囲が広い。
残念ながら、2010年に最初のNFC搭載携帯やスマートフォンが多数登場したころはめぼしいアプリケーションもなく、事業者間で「誰がSEを管理するのか」という、「セキュアエレメント論争」が発生したことで普及に際して互いに足を引っ張り合う状況が続き、なかなかアプリケーションが立ち上がらない状況が続いていた。
この問題を最初に解決したのは2014年に登場したApple Payだが、以後、少しずつ「SEとID」に対する取り組みは進展しつつあり、今回の流れへとつながっている。
冒頭が長くなったが、今回のテーマはNFCに限らずスマートデバイスにおいて重要となる「デジタルID」の話だ。