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トンガの噴火で損傷、海底ケーブルとは? 長さ地球30周分、実は150年超える歴史

沿って mobilephones 06/06/2022 946 ビュー

欧米メディアの報道によると、ニュージーランドの外務省は19日、海底火山の噴火で損傷したトンガと国外をつなぐ海底ケーブルについて、復旧には少なくとも1カ月かかるだろう、という見通しを示したという。海底ケーブルの敷設を手がけるアメリカ企業、サブコム社の見解として伝えている。報道によると、トンガと世界をつなぐ海底ケーブルは1本しかなく、これが切断されてしまったため通信がほぼ途絶えている状況だという。

現在、海外とネットでやりとりする際、99%のデータは世界中の海底にはりめぐらされた光ファイバーのケーブルを通っている。海底ケーブルは太平洋や大西洋などの海底に敷かれ、稼働しているケーブルの数は、世界で400本を超えるとされ、総延長は地球30周分もの長さになる。このため、「海の情報ハイウェー」とも呼ばれている。

海底ケーブルは、膨大なデータを速く、安く、安定して送信できるのが強み。電子メールのほか金融取引情報、国際電話なども海底ケーブルを経由している。大リーグでの大谷翔平選手の活躍がリアルタイムで見られるのも海底ケーブルのおかげだ。高速・大容量通信が求められる現代のネット時代に欠かせない情報インフラとして、近年はとくに注目されるようになった。

人びとの生活を支える「黒衣」のように地味な通信インフラのようにみえるが、注目を集めるようになったのは「国家安全保障」の問題につながるからだ。

2020年8月、アメリカ政府高官の発言で、海底ケーブルがにわかに脚光を浴びた。トランプ政権(当時)の要職にあったポンペオ氏(当時は国務長官)が「クリーン・ネットワーク構想」を表明し、スマホアプリのほか通信キャリア、海底ケーブルなど5分野で中国企業を排除し、同盟国やその国の企業だけでネットワークをつくると明らかにしたのだった。それまで純粋な民間事業だった海底ケーブルの分野に、国家が表立って関与するようになった。

その背景には、海底ケーブルの分野での、中国企業の台頭があった。海底ケーブルのビジネスでは、アメリカのサブコムと、フランスのアルカテル・サブマリン・ネットワークス、そして日本のNECを含めた日米欧3社が世界シェアの9割を占めてきた。当時、そこに割って入ろうとしたのが、中国「華為技術(ファーウェイ)」の関連会社だった。現在はファーウェイではなく、別の中国企業が運営を手がけている。

なぜ、アメリカ政府は、中国による海底ケーブルビジネスの拡大に、これほどまで神経をとがらせたのか――。海底に敷かれているケーブルは、海底から各国の沿岸部に引きあげる専用の施設が設置されているが、そこから通信データなどの情報を取得することができる。つまり、「盗み見ること」が可能なのだ。

そのため、アメリカ政府は、自国の個人や企業、政府の情報が、中国系企業が関与するケーブルの中を通ると、「情報が中国側に筒抜けになる」と危惧した。ただ、それはお互い様で、アメリカ自身、海底ケーブルを経由し民間情報を集めていると、元CIA職員のエドワード・スノーデン氏が告発したことが知られている。

目に見える軍事のような分野のほかでも、「海の底」を舞台に、アメリカと中国の覇権争いが繰り広げられることになった。

「情報が筒抜けにならないか」という点に関しては、日本政府も神経をとがらせるが、アメリカなどに比べると「脇の甘さ」は否めない。

海底ケーブルを陸地に引きあげるポイントは「陸揚げ局」と呼ばれ、日本においては千葉県南房総市や三重県志摩市の2カ所にそれが集中して、ほとんど公開情報のように知られてしまっている。軍施設に置いているアメリカや、陸揚げ局の場所を非公開にしているオーストラリアといった国々に比べると、サイバー攻撃や破壊工作の標的にもなりかねないため、国家安全保障上の危険性が高いのではないかと指摘されている。

トンガの噴火で損傷、海底ケーブルとは? 長さ地球30周分、実は150年超える歴史

陸揚げ局の対策では後れをとっている日本だが、政府も手をこまぬいているわけではない。

2020年夏、南米のチリ政府は、南米とアジア・オセアニアをつなぐ海底ケーブルの最終地点について、当初有力視されていた中国・上海ではなくシドニーを選んだ。さらに、この事業を手がける業者には、NECなどの日本企業が選ばれる方向になった。

チリにとって、中国は主要な貿易相手国。その中国側に配慮して、南米と上海をつなぐルートに決めるのではないかと業界関係者の間ではささやかれていた。しかし一転、上海ルートが外されるなど、事態が急転したようにみえたので取材を進めてみると、日本政府が動いていた。ある政府の関係者は「有力や政治家や、経済安全保障に関連する部署で働く霞が関の官僚たちがチリに出向き、チリ政府高官などと直談判したことで、チリ側を翻意させることができた」と明かした。

この事例からも分かるように、海底ケーブルにまつわる案件は、近年重要性がいわれる「経済安全保障」そのものといえる。

海底ケーブルの歴史は古く、1850年代に英仏間のドーバー海峡に世界で初めて敷設され、日本でも71(明治4)年、長崎と中国、長崎とロシア間に敷かれた。初期のものは、ケーブルの内部に銅線を通して、モールス信号で相手にメッセージを送るというシンプルなつくりだった。

日本に関連するところでは、明治のころ、岩倉具視を特命全権大使として、アメリカやヨーロッパを歴訪した「岩倉使節団」が寄港したアメリカのサンフランシスコから日本国内宛てに電報を送った、という記録が残されている。

その後、技術は大きく進化していった。樹脂などを巻き付けた銅線から同軸ケーブル、光ファイバーへと進化。光ファイバーは、髪の毛ほどの太さのものを多いものだと数十本束ね、樹脂や金属カバーで保護する。細い糸をたらすようにして海に沈めながら設置していく。

もともと通信会社が敷設することが多かったが、世界にインターネットが拡大すると、ケーブルを使用する側のグーグルやフェイスブック(現メタ)など「GAFA」と呼ばれる巨大IT企業が、自ら海底ケーブルを敷くようになった。日本の海底ケーブル事業に従事する関係者は、「グーグルなどが使用する通信容量は半端なく大きくて、海底ケーブルは敷いても敷いてもどんどん必要になってくる」と話す。

海底ケーブルは、世界のネット通信を支える「海の道」だ。情報資源を経済にいかすデータエコノミーが広がっていくにつれ、ますます重要になっている。

トンガの海底火山噴火をきっかけに、海底ケーブルの大事さが再認識される一方、ネットをつなぐインフラを「宇宙に持っていこう」という取り組みもすでに出てきている。

世界的な起業家、イーロン・マスク氏が率いる宇宙ベンチャー「スペースX」の試みだ。スペースXといえば、民間で初めて国際宇宙ステーションへの有人ロケットを打ち上げたことで一躍有名になったが、このほかにも、スケールの大きい事業を考えている。

1万2000もの衛星を宇宙空間に打ち上げ「衛星の層」をつくり、次世代のインターネット網をつくるという壮大な構想で、海底ケーブルが担っている役割をそっくりそのまま宇宙空間に持っていこうというアイデアだ。実現に向けた課題はあるだろうが、インターネット網が宇宙にあれば、今回のトンガのケースのようにケーブルそのものが切断され、通信が途絶えてしまうというような事態は回避できそうだ。

スペースXの技術は、すでに一部は使えるようになっているといい、通信の主役が海底ケーブルから宇宙衛星におきかわる新しい時代がやってくるかもしれない。

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