■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は2021年秋の最新Androidスマートフォンについて話し合っていきます。
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1インチ画像センサーで学んだ技術を活かした新型AQUOS登場
房野氏:2021年秋モデルのAndroidスマートフォンが徐々に登場しています。シャープは「AQUOS zero6」と「AQUOS sense6」の2モデルを発表しましたが、どういった印象ですか?
「AQUOS zero6」
「AQUOS sense6」
房野氏
石川氏:シャープは頑張っているというか、2021年春のハイエンドモデル「AQUOS R6」でライカと組んだことで、安価なモデルのカメラ性能も上がっていて、率直にいいモデルだなという印象を持ちました。
「AQUOS R6」
石川氏
法林氏:やっぱりスマートフォンに使うパーツを自社で作っているメーカーは強いな、と改めて思いましたね。
法林氏
石野氏:実機を少し触ったところ、シャッター速度もオートフォーカスも早かったです。
石野氏
房野氏:AQUOS R6ではシャッターラグの問題なども挙げられていましたが、これは解決したんですか?
石野氏:シャッターラグは、搭載するセンサーやレンズの問題が大きいので、今回のAQUOS zero6やAQUOS sense6ではあまり関係ありません。
法林氏:つまり、スマートフォン搭載用として技術が確立しているセンサーで作れば問題ないということです。
石川氏:1インチセンサーは元々スマートフォン用ではありませんから、以前も触れた通り、センサーを作っているソニーはわかっててXperiaシリーズに1インチセンサーを搭載していなかったんだなと思いますね。
石野氏:Xperiaは、どちらかというとデジタル一眼カメラの「α(アルファ)」シリーズに近い操作感にこだわっていて、向かっている方向性が違いますね。
法林氏:いってしまえば、αユーザーのためのスマートフォンだよね。
石野氏:そういう方向ですね。なので1インチセンサーよりも、スマートフォン用のセンサーを搭載しながら、オートフォーカスとかシャッタースピードといった、使い勝手にこだわっています。
シャープとしては、ソニーと同じことをしても「カメラシリーズを製造していないじゃん」と突っ込まれてしまうので、進む方向がまた違ってきているという感じですかね。
法林氏:カメラには、レンズや画像処理、プログラムなどいろいろな要素がある中で、AQUOSは今回のAQUOS R6、「LEITZ PHONE 1」を通して、撮影した画をソフトウエアでどのようにきれいに見せるか勉強したといっています。ライカと組んでかなり努力したみたいですよ。
石野氏:格段に画はきれいになってますよね。R6以前のAQUOSは逆光に弱い、暗所に弱いでスマートフォンが得意なはずの部分が全体的に弱かった。最近は白飛びしなくなっていますし、進化が見て取れます。
法林氏:ただ、1インチセンサーを載せたAQUOS R6の弱点は、たとえば、ガラス越しに写真を撮るときに、ToFの赤外線光が反射してしまって、うまくフォーカスを合わせられないことがある。スマートフォン用のセンサーではないがゆえの難しさがある。
近年のスマートフォン用カメラに搭載されるイメージセンサーは、すべての画素を位相差検出の画素として使えるので、フォーカスを合わせる速度がめちゃくちゃ速い。それに加えてレーザーフォーカスをやったりして速度を出している。デジタルカメラ用の1インチセンサーでは位相差で計算してフォーカスを合わせるしかない。
計算が難しいという話ではありますが、じゃあソニーは1インチセンサーを自社グループ内で開発し、自社のデジタルカメラで採用しているので、ピントを合わせる計算式を持っているはずなのに、なんでXperiaに1インチセンサーを搭載しないのか……ともなってくる。「α」のDNAといっていいのか……。ちょっと疑問に感じてしまいます。
石川氏:もちろんスマートフォンとデジカメではレンズの数が違う、という話でもあると思います。
石野氏:そうですね。あと、AQUOS R6でも望遠で比較すると画質で劣る部分は見られますし、あのサイズだと複数のレンズを載せるのも難しいですからね。
法林氏:うーん、やっぱり「α」のDNAって入ってなくない?
石野氏:いやいや、あの連写とフォーカス速度はやっぱり「α」を感じますよ。あの高速演算はなかなかできませんし、画作りを見ても「α」っぽくなっています。
石川氏:強いていえば、シャープが1インチセンサーカメラを「スマートフォンのカメラ」といい切るのは難しかったのかな。ライカにインタビューしたときに「これはデジカメの世界観を持ってきたカメラなんですか」と聞いたら「スマートフォンのカメラです」といい切られたので、逃げられちゃったなと思いましたね。
ライカのカメラというと、風景画を構えて撮るといった使い方で満足するんですけど、スマートフォンのカメラといわれると動き回る子どもなどを撮影したくなります。このあたりに対しては、1インチセンサーはオーバースペックなのかな。
石野氏:ソフトウエアのアップデートで修正は試みてますが、まだなんともいえない状態ですね。
房野氏:秋モデルとして出るAQUOS zero6とsense6の2製品は1インチセンサー搭載ではないんですよね。
石川氏:そうです。なのでスマートフォンのカメラらしく小回りが利きます。
法林氏:シャープとしては、1インチセンサー搭載スマートフォンを作って、ライカとお仕事をしたことで学んだ画像処理のノウハウを今回の2モデルにも活かしているという話ですね。
石野氏:ファーウェイもミドルレンジのスマートフォンはライカ協業ではありませんでしたが、ノウハウを学んだことで画質がかなり向上しました。エンジニアが覚えた技術に著作権はないというか、チューニングの勘所を掴んだというところですかね。
新型AQUOSの2モデルは全部が“ちょうどいい”?
房野氏:今回、AQUOS zero6はプロセッサに「Snapdragon 750」を搭載しています。正直zeroシリーズに“ミドルハイ”のようなイメージがなかったので驚いたのですが……。
石野氏:2020年モデルの「AQUOS zero5 basic」は「Snapdragon 765 5G」を搭載していたので、昨年からといえばそうですが、シリーズとしてのコンセプトは昨年モデルで少しぶれましたよね。
「AQUOS zero5 basic」
法林氏:ただ、僕の中では、AQUOS zero5G basicとGalaxy A51が2020年の隠れたベストモデルでしたね。というのも、値段とできることのバランスが非常に優れていたと思います。
今の市場動向をみると、20万円近くする端末を買うよりは、10万円未満の端末を1年に1回買い替えるような動きだと思います。
「Galaxy A51」
石川氏:正直、AQUOS zero5G basicは“zero”の冠を付けないほうが良かった気がしますね。
法林氏:そうなんだよね。あれは有機ELを載せる関係でそうなったんだろうだけど、“zero”といえば薄型の路線だとみんなが勘違いしてしまった。
石野氏:“AQUOS sense OLED”みたいにsenseシリーズの上という設定にすればよかったですよね。zeroは薄型軽量で登場、次モデルはさらに軽量とインパクトを与えていたのに、basicでみんなが「あれ?」ってなっちゃった。
法林氏:多分zeroシリーズは“R”シリーズとか“sense”シリーズとは違うラインで作っているんじゃないかな。
石野氏:まぁXperiaも「Xperia 1」シリーズと「Xperia 10」シリーズは違うでしょうね。
石川氏:シャープは「AQUOS R6」の時からそうだけど、全体的に攻めている印象を受けます。
房野氏:IGZO OLEDをAQUOS sense6にも搭載するんですよね。
法林氏:“sense”シリーズに搭載するのはすごいよね。IGZO OLEDの生産数がまだ限られている中で、AQUOS senseのラインでもやるのは驚きました。おそらくIGZO OLEDは自社端末で使い切る方向なんだと思います。
石野氏:アップルやサムスンは出荷量が断然多いので、各製品にIGZO OLEDを搭載するのは厳しいのでしょうね。
房野氏:シャープはディスプレイをアップルに卸していませんでしたか?
法林氏:今回はやってないはずです。iPhone 13シリーズでディスプレイを供給しているのは、LGかサムスンだと思いますよ。
石野氏:10Hzから120Hzのリフレッシュレートなので、サムスンの「Galaxy S21 Ultra 5G」と同じですね。
房野氏:“sense”シリーズでOLEDを搭載したとなると、これからのスマートフォンは有機ELがベースになると考えていいんでしょうか。
法林氏:OLEDを載せたほうが薄くて軽い、指紋認証センサーを画面内に埋め込める、省電力などメリットが大きいんですよね。
石野氏:発色も良くなります。メリットしかないですよね。
法林氏:液晶がダメ、OLEDが良いという話ではなくて、スマートフォンに載せる場合、今求められるスペックだとOLEDのほうが対応できるという話ですね。
房野氏:AQUOS sense6はどこのキャリアから発売されますか?
石野氏:AQUOS sense6はドコモとKDDI、AQUOS zero6はソフトバンクとKDDIですね。ただソフトバンクはまた別でなにか企んでいるっぽい(笑)
法林氏:“sense”のSIMフリーモデルの出荷台数は、累計で相当なものになるみたいですよ。
房野氏:2端末ともに前モデルと同等程度の価格になるという話ですね。
石野氏:そうですね。なので価格設定のしかたが例年と同じなら、AQUOS zero6は7万円程度、AQUOS sense6は4万円程度になると思います。AQUOS sense6でちょっと気になったのは、プロセッサが前モデルと同じなんですよね。半導体不足もあって性能を絞り込んでいるのかな。
法林氏:もちろん値段もあるし、半導体不足もあると思うんだけど、チップベンダーのクアルコム社がメディアテック社に市場を取られ始めているというのもあると思いますよ。普及価格帯向けのチップからどんどん攻めて来ていて、どんどんパフォーマンス競争が激しくなってきているパソコンのプロセッサも昔はインテルがトップで、AMDが追う展開だったけど、最近では「AMDの方がいいでしょ」って普通に言われちゃう時代なので、今後はどうなるかわかりません。
石川氏:グーグルの「Pixel」も自社開発プロセッサを搭載すると考えると、半導体不足は結構影響が大きい気がしますよね。
法林氏:チップセットの性能は飽和状態にも見えますし、値段が上がるとともに発熱量も増えるので、いたずらに性能を上げる必要がないのかもしれません。
石野氏:あと、「Snapdragon 690」の次の型番はどうするのかという問題もあります。“695”に刻むのかとか、マーケティングの限界を感じます(笑)
......続く!
次回は、通信各キャリアの低価格プランについて会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ!
石野純也(いしの・じゅんや)慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘文/佐藤文彦