2020年4月24日20:00にYouTube Liveにて公開された『きょうのできごと a day in the home』。コロナ禍において映画製作ができない状況の中、オンライン飲み会をテーマにした40分ほどの中編ムービーです。ご覧になった方も多いのではないでしょうか。
出演者は6人。それぞれがZoomのようなビデオ会議システムを通じて飲み会をしている様子をそのまま収録した、まさに「今」を感じられる作品。従来の「映画」とは異なるテイストとなっているのが最大の特徴です。
非常に意欲的であり、独創的な作品である『きょうのできごと a day in the home』。そのアイデアが生まれた過程や製作風景、使用された機材、そして作品に込められた想いやこれからについて行定 勲監督にZoom越しにお話を伺いました(※兄弟メディア「ROOMIE」でもインタビューしています)。
家にいる人が飲み会の隣にいるような気分になればいいな
──今日はよろしくお願いします。オンライン飲み会をテーマにした『きょうのできごと a day in the home』ですが、このアイデアはどうやって生まれたのでしょうか?
行定監督:コロナ禍において、三密になるということで映画の撮影はストップしていますよね。でも脚本家の伊藤ちひろから「ゼロから作るなら何かやれるんじゃないですか?」って言われたんですよ。でも僕は機械音痴だし、何ができるのかなと思って。
多分インディーズの若手たちは自分の部屋で自撮りしたりとか、友だちを遠隔で撮影したりしてそれを編集したりしているのかもしれない。たとえば『カメラを止めるな!』の上田監督や、斎藤 工君もオンラインシステムを使ってやっていると思うんです。
僕はそういう難しいことはわからないんですけど、もっと単純に飲み会をしている姿を記録できるということを知って、じゃあそのスタイルで撮影して流せばいいかと。家で一人で過ごしている人が、まるでその飲み会の隣にいるような気分になったり、心のよりどころになればいいなと思って作りました。
僕、鈴木慶一さん(ムーンライダーズ等で活躍。ゲーム、映画音楽等も数多く手がける)のTwitterを見てすごく救われていたんです。慶一さんが「音楽を作っている人は音楽を作ればいいんです」ってつぶやいていて(笑)。それで「今日は1曲できました」とかつぶやいているんですよ。
ある日は「楽しかったな。ZOOM飲み会。高校の仲間と。」っていう写真をアップしていたんです。みんな慶一さんと同じ年代の方たちばかりなんですよね。しかもみんな笑顔なんですよ。それが微笑ましくて。あのロックなスピリットを持つ慶一さんが、すごく楽しそうに笑ってるのを見て、これは映画になるなと思ったんです。「俺がこの状況を映画にするならオンライン飲み会だな」ってスタッフに言ったら、「じゃあそれやればいいじゃないですか」って言われて。そこから生まれたという。
──実際、製作が決まってから公開までの期間はどのくらいなんですか?
行定監督:2週間ですね。
──早いですね。
行定監督:非常事態宣言(4月7日)が出たときに打ち合わせをして決めたんですよね。そこからスタートして、2週間で公開にこぎ着けました。
有村架純ちゃんも自分のパソコンを自分で設定していました(笑)
──オンライン飲み会そのままのリアルな雰囲気の作品でしたが、機材などはどのようなものを使っていたのでしょうか。
行定監督:Zoomです。話している様子をレコーディングできるじゃないですか。その機能を使ってレコーディングしたそのままです。
──編集はしていないんですか?
行定監督:していませんね。
──ノー編集というのはすごいですね。
行定監督:音声も全部活かしています。音に関してZoomを使ってわかったのは、一番重要なことはどんなパソコンを使っているかなんですよね。パソコンごとに特性があるんですよ。たとえば音の帯域が違うとか、顔の位置が正面だとすごくクリアなのに、ちょっと横にそれるとダメとか。
浅香航大君の使っているパソコンは、声の発する位置によって明らかに聞き取りにくいところというのがあったんですが、彼にあまり言ってしまうとそれを気にするだろうから、聞き取りにくかったら誰かが聞き返すようにと指示しました(笑)。
──それはもう、普通のZoomでの会話ですよね。
行定監督:そうです。普通なんですよ。人によって画質も違うじゃないですか。今回は比較的よかったと思うんですけど。ライティングをすれば顔がきれいに映りますが、今回はあえて指定せずに自主性に任せました。
──俳優さんが持っている機材だけでやっているんですね。
行定監督:はい。照明の色が電球色なのか白昼色なのか、それもお任せで。そのほうがリアリティがあるだろうなと思ったんですよね。
あとは、撮影に関しては自分たちで全部やるという。パソコンの操作がわからない場合は僕らが指示をして。「音、もうちょっと上げといてもらえます?」って(笑)。おもしろかったですよ。有村架純ちゃんも自分のパソコンを自分で設定していました(笑)。
ちゃんと映っているか、音量は大丈夫かということを最初に確認だけして。ほんとのZoomで飲み会をする前に、「ちょっと音聞こえにくいなぁ」なんて言ってるじゃないですか。あのまんまですね。
カットも光も美術も、メイクや衣装も、段取りを踏んでいくことを全部やめました
──撮影している間は、監督は何をされてたんですか?
行定監督:僕は見てるだけですね。あの飲み会に参加はしていますが、画像をオフにしています。撮影中は何の指示も出していません。キューも出していませんね。唯一、架純ちゃんにチャットで合図を出しただけです。「そろそろ出てください」って(笑)。まあ、本人もわかってはいたので念のためですけど。
──斬新ですね(笑)。
行定監督:映画だとこうはいきません。完全なものを求めるわけですから。でも今回は、カットも光も美術も、もちろんメイクや衣装も、全部の段取りを踏んでいくことをやめました。全員がそれぞれでやるという。
僕はかねてから、エリック・ロメール監督の作品に憧れていたんです。彼は後期の頃に大勢のスタッフで撮影するのが煩わしく思って、自分とカロリーヌ・シャンプティエという女性カメラマン、そして録音技師という最小限のスタッフだけで、自然光で撮影するというやり方をしていたんです。あとは、役者にメイクから衣装まで全部決めさせて、自分のキャラクターを作らせていくということもしていました。
今回はそれがちょっと頭をよぎりましたね。おもしろそうだなって。だから「自主性に任せます」って出演者のみなさんにお願いをして。なので、自分なりに背景をどこにするかとか考えたと思うんですよ。撮影のために背景を作り込んだりとか、友だちと話すときと同じようにしている人もいるし。それがすごくおもしろかったですね。
あとは、カット割りがないわけです。42分くらいあるんですけど、ずっとワンショットの通しで記録するので、役者がいろいろ工夫しなければなりません。
柄本 佑君はすごく映画マニアチックなんですけど、顔をアップにしたり、いいところのアングルを探ってて、ちょっと煽り気味にしていたりするんですよね。カメラ割りがないので、自分がアップで見せたい場合は自分でカメラに寄る、引きたい場合は自分で下がるっていう(笑)。
もっと言えば、途中で画面から消えてお酒を取りにいったりしてもいいわけです。それも全部、相手の出方を見て自分なりの自主性というかね。芝居ができる俳優たちが集まったんで、それぞれのパフォーマンスを見せてくれっていう(笑)。放任的にやったという感じですね。
──舞台のようですね。
行定監督:エチュード(即興劇の一種)に近いんですけど、脚本はしっかりありました。
基本的にほとんど脚本。映画紹介の部分はアドリブ
──どこまでが台本でどこまでアドリブなのかというのはすごく気になっていました。
行定監督:基本的には脚本です。途中で映画の話をしますが、それは実際に話したい映画の話をみんなで話してほしいと脚本に書いておきました。
──みんなが好きな映画を紹介するところですね。
行定監督:あの直前までは脚本があって、浅香君の「みなさんどんな映画が好きなんですか」というセリフからアドリブです。それぞれがほんとうに自分が選んでいます。ここはおもしろかったですね。
たとえば高良健吾君がジャームッシュの『パターソン』を選んでるんです。あれは日常の積み重ねの慈しみをテーマにした作品です。日常の豊かさみたいなものが、最後にぐちゃぐちゃになって主人公が失意に陥るんですね。でもそこからもう一度スタートしないといけない部分とか、そういうことを感じさせる作品を選んでいるなとか(笑)。
【行定監督のお気に入りガジェット】
行定監督が長年愛用する腕時計「IKEPOD」(アイクボッド)。デッドストックを探して購入したとのこと。腕時計のなかでは一番のお気に入りなんだとか。IKEPODは1994年にドイツ人の実業家オリバー・アイクとオーストリア人デザイナー、マーク・ニューソンによって創業された時計ブランド。マークはジョナサン・アイブの盟友であり、Apple Watchのデザインチームにも参画していたと言われていますが、このIKEPODはそのきっかけとなった時計であり、Apple Watchに通じるデザインテイストが端々に感じられます。
Sorce : ROBOT CONTENT LAB