【12日8時更新】赤字部を追記。
各社が参入した QR コード決済の開始から約1年半、Origami Pay が事実上メルペイに買収され、LINE Pay と PayPay も経営統合で同じ陣営になるなど、勢力の整理がひとたび落ち着いたように見える。一方で、その UX から言って、QR コード決済は NFC 決済に勝てないという見方もある。アプリを立ち上げて QR コードを店員かセルフレジのスキャナに向けなければならない QR コード決済と、何も考えずにスマートフォンをタッチセンサーにかざすだけで済む NFC 決済の利便性の差は明らかだ。
コンビニなどで、ポイントを貯めたり、クーポンを使ったりして、QR コード決済でモノを買うときはカオスである。クーポン利用のために、コンビニのマルチメディアキオスクで専用バーコードを吐き出させ、それと商品も持ってレジに向かう。レジでは、ポイントを貯めるためと QR コード決済のため、モバイルアプリを切り替えて、QR コードを2回店員に提示しなければならない(または、セルフレジでスキャンしなければならない)。高齢者のみならず、デジタルネイティブでさえ躊躇してしまいそうなひどい UX だ。
QR コード決済事業者らはおそらく、NFC 決済が本命になることを知っている。しかし、自社のプロトコルに準拠させた NFC 決済に必須となる端末を全国津々浦々の小売店に普及させるのは、コスト的にもタイミング的にも後発事業者にとって分が悪い。それがわかっているからこそ、メルペイは iD と提携したり、楽天 Pay も Suica と提携したりしているわけだ。NFC 決済ネットワークとのタイアップにより、いずれは QR コードを提示しなくても決済できるようになるのだろう。
とはいえ、一台数万円以上になる決済端末が配置されるのは、商品単価や顧客単価が一定以上の小売店舗に限られる。青空市場でも段ボールに QR コードさえ貼り付ければ決済対応できる QR コード決済とは対照的に、導入のためのハードルの高さはトレードオフの関係になる。NFC 決済の手軽さと、QR コード決済を同居させることはできないか。アクアビットスパイラルズが昨年発表した、スマートフォン向けのマルチペイメント機能「PayChoiice(ペイチョイス)」にその可能性の一端を見出すことができる。
<参考文献>
PayChoiice は、アクアビットスパイラルズが開発してきた QR コードや NFC 技術を使って、ユーザのスマートフォンを特定の URL と紐づけるサービス「スマートプレート」を決済用に応用したものだ。ユーザは店頭に配置されたスマートプレートにスマートフォンをかざし PayChoiice のアプリを起動、生体認証を経て、ApplePay、GooglePay、クレジットカードなどでの決済が可能となる。店舗は決済端末を置く必要がなく、バッテリ不要のスマートプレートを置いておくだけだ。
【追記】PayChoiice はネイティブアプリのインストールを必要とせず、Web アプリで動作する。
決済においては販売側の店舗と購入側の消費者が向き合うことになるが、スマートフォンがまだ無かった頃は、ネットワークが店舗側にしか無かったため、決済端末が必要不可欠だった。しかし、今やスマートフォンの普及率が8割を超えた今、店頭において、ネットワークはむしろ消費者の方が充実していて、店舗の方が賓素だったりする。以前、既存のコインパーキングの仕組みをモバイルの力で置き換えようとする「ParkX」というサービスを紹介したが、PayChoiice の技術的なスキームもこれに似ているかもしれない。
店頭に置かれている決済端末よりもスマートフォンの方ができることは多い。また、決済端末は通常、電話回線などを通じて CAFIS や GMO ペイメントゲートウェイなどの決済ネットワークを通じてクレジットカード会社(アクワイアラ)に繋がっているわけだが、PayChoiice のような仕組みが普及すれば、店頭の決済端末は必要なくなり、決済ネットワークの役割も店頭と接続するよりは、クレジットカード会社やブランドらを相互接続するエクスチェンジとしての役割により特化することになるだろう。
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EMV コンタクトレス(いわゆるクレジットカードの非接触型決済)の普及も相まって、仮に決済端末が姿を消す流れにあったとして、前述したように決済ネットワーク会社にとっては役割が残されるが、問題は決済端末会社だ。決済端末が必要なくなってしまっては彼らの死活問題である。決済端末メーカーで世界最大手の Ingenico は昨年、MWC で「Tap on Phone」というコンセプトモデルのモバイルアプリを出展していた。まさに、店頭の決済端末が不要になる時代を、決済端末メーカー自ら予見して見せた形だ。
一方、カードブランド国内最大手の JCB は先月、PayChoiice を使うことで決済端末無しの状態でクレジットカード決済を行う実証実験を始めた。BusinessInsider によれば、JCB はユーザがタグにスマートフォンをかざすという UX を受け入れるかどうかを気にしているようだが、もはやスマートフォンをかざさないと電車に乗ることさえままならない現代において、QR コード決済よりもハードルが遥かに低いことは自明だ。日経によると、JCB は商用化以降、小店舗やイベント会場での導入を見込んでいるという。
Square やコイニーの誕生により、決済端末が専用機器からスマートデバイスにも広がったことで、フードトラックや零細店舗をはじめ、カード決済を受け付ける環境の裾野は広がった。次なる期待は、決済端末そのものが店頭に要らなくなるかもしれないパラダイムシフトだ。OMO(Online merges with Offline)が普及していく中では、クレジットカード業界にとって避けて通れない、対面決済(オフライン購買前提)と非対面決済(オンライン購買前提)の垣根を払うことも今後の課題だ。
PayChoiice は昨年末から、製造業者・職人と店舗を繋ぐプラットフォーム「カタルスペース」、アート専門のマーケットプレイス「TriCERA」、東南アジアのレストランや病院などで使える並ばずに番号札を取得できるアプリ「QueQ」、AI レストランメニュー「Satisfood」といった OMO サービスプロバイダに導入されており、UX 向上にどの程度寄与できているか、今後、エンドユーザの声や業績動向などを交え確かめてみたい。
【追記】OMO サービスプロバイダの導入状況は、カタルスペースは導入済(発表済)、QueQ は導入中(未発表)、残りの2社は導入予定。
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